滋賀県の北東部に位置する長浜市は、豊臣秀吉が長浜城の城下町として整備した歴史ある街です。織豊時代の文化を受け継ぎながら、北国街道や琵琶湖水運の要衝として発展してきました。
この記事では、長浜の4つの酒蔵と観光スポットである「黒壁スクエア」、そして、それを結ぶガラス細工についてご紹介します。
独自の個性が光る新旧4つの酒蔵
長浜市内には、4つの酒蔵(山路酒造、冨田酒造、山岡酒造、佐藤酒造)があり、それぞれの特徴を活かして日本酒を醸しています。
「北国街道」を醸す山路酒造の創業は古く、織田信長が生まれる2年前、1532年(天文元年)のこと。旧北国街道沿いで約490年に渡って酒造りを営んでいます。
日本酒のほか、創業当時から、もち米と桑の葉を原料とした「桑酒」と呼ばれるリキュールも醸造しています。
山路酒造と同じく、旧北国街道木之本宿にある冨田酒造の創業は、山路酒造から遅れて2年後の1534年(天文3年)です。代表銘柄の「七本鎗」は、賤ヶ岳の戦で活躍した7人の武将にちなんで名付けられました。「渡船」や「吟吹雪」「玉栄」など、滋賀に由来する品種を使った酒造りに力を入れている酒蔵です。
明治初期、1890年代に創業した山岡酒造は、農業ととも酒造りに取り組む「伴農繁醸(はんのうはんじょう)」を実践。「地酒は文化」をモットーに、地域の食文化と共に歩む酒造りを行っています。代表銘柄は「瑞冠(ずいかん)」です。
長浜で最も新しい酒蔵が、「湖濱」を醸す佐藤酒造です。現蔵元である佐藤さんのご実家は、元々長浜市の中心部で営んでいた造り酒屋でしたが、1974年にご実家の酒造会社を含め長浜市内の8つの酒造会社が合併し、協業組合による酒造りに切り替わります。しかし、平成に入り、この協業組合が廃業し、酒造免許も消滅することになりました。
佐藤さんは、再び長浜の地で酒造りを行うために奔走し、2011年3月にようやく念願の清酒・リキュール製造免許を取得。気持ちを新たにして酒造りに取り組んでいます。
長浜のためのオリジナル純米吟醸酒「長濱」
長浜観光のメインスポットとなる琵琶湖湖畔の元浜町周辺は、琵琶湖クルーズ船や豊国神社、豊公園など秀吉ゆかりの史跡を訪ねる観光客で賑わいます。
その中で一番の注目は「黒壁スクエア」と呼ばれる街並みのエリア。ガラス工芸品の展示やガラス細工の体験教室などが楽しめる施設が立ち並び、年間200万人の観光客が訪れています。
黒壁スクエアのシンボルといえる「黒壁一號館 黒壁ガラス館」は、もともとは明治時代に国立銀行(第百三十銀行長浜支店)として使われていた木造の洋館です。
“黒壁銀行”の愛称で地元の人々に親しまれていましたが、昭和30年代から平成になる直前までは、長浜カトリック教会として使われ、白いモルタル壁に塗り替えられていたそうです。
時代は平成となり、長浜カトリック教会が移転することになると、「この建物が“黒壁”として親しまれていた時代の街に活気にあったころの元の姿に戻したい」という地元の人たちの声によって、再び“黒壁”として復刻し保存していくことになります。
しかし、建物の保存は決まったものの、どのように活用するかは全く白紙の状態でした。
戦国時代、長浜は堺や根来と並ぶ鉄砲の職人集団「国友衆」で名を馳せた地域。南蛮文化と馴染みが深い長浜らしさを現代に反映させるべく、注目されたのはガラス細工でした。くしくも、きらびやかなガラス細工は、黒壁の洋館の雰囲気ともよく合います。
こうして、1989年7月、木造の洋館は「黒壁一號館 黒壁ガラス館」として生まれ変わりました。隣接する敷地には、黒壁オルゴール館、黒壁ガラススタジオが相次いで建てられ、「黒壁スクエア」がオープンします。現在では、黒壁グループ協議会が設置され、元浜町一帯にある直営店・協賛店22店舗は総称して「黒壁スクエア」と呼ばれています。
今回お話をおうかがいした黒壁株式会社 広報の佐藤さんは、佐藤酒造のご出身で、現蔵元のお姉さんです。長浜の文化を象徴する日本酒を家業にして育ったため、地元の話をすると止まらなくなり、同級生たちに会うと「地元愛が強すぎる」と苦笑されるそうです。
ガラス細工を通じて長浜の魅力をアピールしている「黒壁スクエア」ですが、長浜の日本酒の魅力を伝えることにも一役買っています。
長浜の物産を取り扱う「黒壁五號館 黒壁AMISU」では、長浜の4つの酒蔵の日本酒だけでなく、地元農家に栽培を委託した酒米を自社ブランドの日本酒として販売をしています。
店名の「AMISU(アミス)」は、室町時代に将軍の近くで、雑務や芸能にあたった「阿弥衆(あみしゅう)」に由来します。“目利き”という意味合いもあり、そこから「良いものを厳選してお届けする専門家」を目指して名付けられたのだとか。
湖北の優れた地域資源を活用し、ものづくりを通して長浜の活性化や伝統文化の継承に貢献しようという「長浜人の地の酒PROJECT」を経て完成したのは、芳醇な吟醸香と穀物感も併せ持った純米吟醸酒「長濱」です。
滋賀県産の酒米「吟吹雪」を使用し、伊吹山系の伏流水で仕込まれたこの日本酒は、現在は、山岡酒造と冨田酒造の2つの酒蔵が造っています。黒壁AMISUで購入できるほか、試飲も可能。長浜の旅の思い出に、ガラスのお猪口や片口と一緒に購入するのもおすすめです。
長浜の酒とガラスの酒器で一献
長浜では、毎年、「黒壁スクエア」を中心に街が一体となってガラスの祭典「NAGAHAMA GLASS FES」が開催され、今年で6回目を迎えます。
さらに4年前からは、日本酒に特化した「北近江サケグラス公募展」も開かれるようになりました。これは、次世代に伝えたい優れた日本酒を味わうためのガラス酒器を全国のガラス作家から広く募集し、優れた作品を来場者の人気投票で決定する展覧会です。
毎回、100点を越える作品が出品され、ガラス作家をはじめ、日本酒好きや酒器好きの人たちを巻き込み、長浜の街と文化をもっと深く親しんでいく場となっています。
2021年の作品募集はすでに締め切られ、審査を行う公募展は、2021年10月23日(土)から長浜慶雲館 本館で開催されます。コロナ禍の今年は、来場者のみならずオンラインでの投票も可能になりました。
北近江の歴史ある酒蔵と全国のガラス作家が長浜でつながる展覧会で、お気に入りのガラス酒器を探してみてはいかがでしょうか。
(取材・文:湊 洋志/編集:SAKETIMES)
◎イベント概要
- 名称:「第4回 北近江サケグラス公募展」
- 会期:2021年10月23日(土)~11月7日(日)
- 会場:長浜慶雲館 本館(滋賀県長浜市港町2-5)
- 時間:9:30~17:00(入館16:30まで)