兵庫県を代表する山田錦の産地

山陽盃酒造がある兵庫県南西部の宍粟市(しそうし)山崎町は、山崎藩の旧城下町。戦国時代の知将として人気の黒田官兵衛が、豊臣秀吉から1万石の知行地を与えられた地として、多くの歴史ファンに知られています。また、播州地方(兵庫県南部)は県を代表する酒米「山田錦」や「兵庫夢錦」の一大産地でもあります。

「播州一献 ののさん 純米吟醸生酒」のラベル写真

創業は1837年(天保8年)。蔵のほとりを流れる揖保川では、かつて、高瀬舟が米や材木を運んでいたといわれています。主要銘柄は「播州一献」。播州地方の米と水を使い、手間をかけて醸した酒を「さあ、一献どうぞ」と勧める意味で名付けられました。昔から林業が盛んな土地のため、淡麗な酒よりも濃い味付けの食事に合う、昔ながらの日本酒を造ることをモットーにしています。

近年は熟成酒にも力を入れるようになりました。蔵から約1時間の場所にある史跡明延(あけのべ)鉱山は、全国でも数少ない錫(すず)の産出地。その坑道内を、鉱山貯蔵庫「明壽蔵」として使用しているのです。坑道で日本酒を熟成させるのは、関西ではこの蔵だけなのだとか。遮光性に優れ、年間を通して温度が9℃前後に保たれる天然の保冷庫です。自然のセラーで熟成された酒は驚くほどやさしくまろやかな味わいになります。

観音様のような、やさしく大らかな味わい

今回紹介する「ののさん」は、但馬地方の方言で「観音様」という意味です。麹米に兵庫県産の山田錦、掛米に兵庫夢錦を使用しています。兵庫夢錦は、1987年(昭和62年)に品種登録された兵庫県産の酒米で、柔らかくふくよかな味わいに仕上がるのが特徴です。

「播州一献 ののさん 純米吟醸生酒」がぐい呑に入っている写真

開栓したときの香りは穏やかで、蒸した米や麹を思わせます。口に含むと、柔らかく、それでいて厚みのある米の旨味と甘味、そしてその奥に乳酸系の酸味を感じます。口の中いっぱいに旨味が膨らんでいく、フルボディタイプの酒です。山田錦らしい丸みのある味わいと太い骨格を、夢錦の柔らかさが補完しているようで、濃醇でありながら優しい味わい。まさに「観音様」のような、大らかでゆるりとした印象です。生酒の荒々しさと渋味が適度に混じり合い、後口はしっかりキレていきます。

「播州一献 ののさん 純米吟醸生酒」の裏ラベルの写真

濃醇旨口タイプですが、決して呑み飽きしません。濃い目のおつまみとの相性が最高でしょう。魚介類の煮付けや照り焼き、うなぎの蒲焼、タレの焼鳥、ホルモンなど内臓系の焼肉、脂の多い刺身、豚の角煮、すき焼きなどに合わせると、きっと幸せな時間を過ごせますよ。燗にすると、米の旨味がより膨らみ、さらに美味しくなります。

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