加藤清正公の流れを汲む老舗蔵
冨士酒造は、山形県でも屈指の米処として知られる庄内地方の鶴岡市にある老舗蔵。安永7年(1778年)に4代目・賀茂屋専之助有恒が銘柄「冨士」を造ったことによって創業しました。現在の蔵元である加藤有慶氏は、冨士酒造の13代目。加藤家は豊臣家の名将・加藤清正の流れを汲む名門の家系です。清正公の嫡男・忠広公が改易され、出羽国である現・鶴岡市に配流されたあとに生まれた長女・加藤妙延が加藤家の祖と言われています。そのため、蔵には清正公が使用した槍の一部などが残っているのだとか。
山形県には「冨士」という名を冠する山はありませんが、創業当時、全国には日本を代表する名所や山・川にちなんだ銘柄が多くあり、それにあやかって、酒蔵や銘柄の名前が付けられたそうです。昭和39年(1964年)には、繁栄の願いを込めて「冨士」の上に「栄光」を加え、現在の主要銘柄「栄光富士」が誕生しました。
"東北の灘"から全国へ向けた新・栄光冨士
同蔵がある鶴岡市大山は江戸幕府の天領として、酒造りの長い歴史があります。一時期は十数軒の蔵が存在し、広島県の西条市や兵庫県の灘地区と並んで、"東北の灘"と呼ばれたこともあるほどです。現在も4つの酒蔵があります。
現蔵元の有慶氏が社長に就任したのは2005年。そのころは蔵の売り上げが落ちていましたが、長い年月をかけて酒造りの基本を見直し、主に原料処理と搾ったあとの貯蔵管理に細心の注意を払いながら酒質を向上させてきました。今回紹介する「栄光冨士」は、全国の特約店限定で販売される無濾過生原酒のシリーズです。
複雑な旨味で、燗も楽しめる生原酒
「純米吟醸 仙龍」は、地元・山形県と長野県産の美山錦を60%まで磨いて造られた生原酒です。麹の香りとフレッシュなバナナを思わせる果実香が目立ちます。口に含むとジューシーな甘さが広がりますが、そのあとにシャープな酸味が全体を引き締めます。ほどよいガス感があり、渋味と甘味が調和しています。後口は、ビターチョコレートのような苦味をともなって、スッと消えていきました。
さまざまな味わいを感じることができる、楽しいお酒です。開栓してから日を置くことによる味の変化も楽しめるでしょう。酒蔵は冷やした状態で飲むのを推奨していますが、燗にしても良いですね。特に、ぬる燗にすると、酸味と甘味が調和しておすすめです。「栄光冨士」シリーズは全国的な知名度も徐々に高まってきているため、今後も酒質の向上が期待できるでしょう。