2017年に北海道で誕生した新設蔵

カウンターに置かれた上川大雪 特別純米 彗星生(北海道上川郡上川町/上川大雪酒造 緑久蔵)のボトル

平成29年(2017年)、三重県にあった休眠蔵の酒造免許を移転するという前例のない方法で、大雪山(たいせつざん)のふもと、北海道上川郡上川町に誕生した「上川大雪酒造 緑丘蔵」。同年5月の試験醸造を経て、10月から北海道産の酒造好適米を使った仕込みを始めています。

酒造責任者は、石川・福岡・岩手・山形・群馬など日本各地の銘酒蔵で修業し、卓越した技術を誇る川端慎治さん。北海道の金滴酒造にいたころ、平成23年(2011年)に北海道産の酒米「吟風」を使った逸品で、全国新酒鑑評会の金賞を受賞しています。本州の酒米と特性が異なる北海道産の酒造好適米に関しては、パイオニアと言ってもいいかもしれません。

上川町はもち米の産地で、うるち米(飯米)や酒米は生産していませんが、川端杜氏が契約栽培農家を厳選し、南幌町や愛別町、砂川市などで作られた北海道産の酒米をすべての仕込みで使用しています。北海道で初の全量純米蔵であることも、当蔵を語る上で特筆すべきでしょう。

町民が全面的に支援する"町民蔵"

上川大雪 特別純米 彗星生(北海道上川郡上川町/上川大雪酒造 緑久蔵)のラベル、製造者名等をアップ

酒蔵を立ち上げる中心になったのは、北海道と上川町を愛する、上川大雪酒造株式会社の塚原敏夫社長。川端杜氏とは、同じ小樽市出身ということで意気投合したそうです。北海道はもちろん、自然に恵まれた上川町を盛り上げたいという地域創生の夢をもって、たった1年ほどで新酒を誕生させるまでに至りました。町役場や町民の方々が酒造りをボランティアで手伝うなど、"町民蔵"としての期待も高まっています。

今回、記念すべき第1号の新酒として登場したのが、空知郡南幌町産の「彗星」を使用した特別純米酒です。「彗星」は平成18年(2006年)に品種登録された北海道産の酒造好適米。北海道初の酒米「初雫」と「吟風」を掛け合わせて誕生しました。タンパク質の含有量が少なく、淡麗な味わいに仕上がりやすいといわれています。現在、北海道の日本酒は、この「彗星」と「吟風」「きたしずく」の3種類を中心に醸されています。

個性的なラベルデザインと秀逸な味わい

上川大雪 特別純米 彗星生(北海道上川郡上川町/上川大雪酒造 緑久蔵)のボトルとワイングラス

家紋を思わせる五角形のラベルデザインは大雪山の「大」や雪の結晶、アイヌ紋様をモチーフに、日本酒の五味である「甘・辛・酸・苦・渋」を表現しているのだそう。

上立ち香は華やかで、爽やかなマスカット香を感じます。口に含むと、新酒らしいフレッシュなガス感が心地良く、フルーティーな味わい。派手すぎず、適度なやわらかさのなかに、ミネラル感とも言うべき、芯の通った締まりを感じます。フレッシュ感や締まりの良さをまとめるように、彗星らしい軽快な米の旨味・甘味が感じられ、後口はスッとキレていく印象です。

上川大雪 特別純米 彗星生(北海道上川郡上川町/上川大雪酒造 緑久蔵)のボトルには「彗星100% 生」と書かれた首掛け

「原料以上のものは造れない」と川端杜氏が言うように、北海道という雄大な大地のなかで生まれた、最高の米や水を使用した1本。川端杜氏が目指すのは、"呑まさる(北海道弁で杯が進むの意)酒"だそう。北海道を代表する蔵としての発展を期待しましょう。

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