家族経営の小さな蔵から全国への挑戦

若駒酒造は、万延元(1860)年創業の歴史ある清酒蔵。蔵があるのは、県内有数の穀倉地帯・小山市(旧豊田村)の田園が広がるエリア。日光の山並みから年月をかけて流れてくる地下水が湧き出すため、名水の地としても知られてきました。家族経営の小さな蔵で、生産石高は200石あまりと、造りは小仕込み。2007年には、蔵の主屋などが国の登録有形文化財に指定されました。小規模で古い蔵ですが、新しい「若駒」ブランドが全国で少しずつ評判を呼んでいます。

若き6代目による、米を磨かない「若駒」誕生

30代前半の若き6代目・柏瀬幸裕さんが蔵元杜氏になる前は、お母さんが杜氏として酒造りを行っていたのだとか。幸裕さんは次男で、アルコール飲料が苦手だったこともあり、蔵を継ぐ予定はありませんでした。

しかし、大学生で経験した東京にある日本酒居酒屋でアルバイトがきっかけとなり、酒造りに興味を持ち始めたそう。幸裕さんは奈良県御所市で「風の森」を醸す油長酒造で3年間修業し、2009年、蔵に戻りました。そして、修業の経験を生かして造った「若駒」で勝負をかけたのです。

若駒の特徴は"米を磨かない"こと。今回紹介するお酒も精米歩合80%。つまり、原料である米を20%しか磨いていません。近年、原料米をあまり磨かない酒造りに挑戦する蔵が増えてきましたが、それをスタンダードにする酒蔵は珍しいでしょう。また、蔵の歴史を生かして、60数年ぶりに木桶仕込みを復活させました。佐瀬式の槽(ふね)を使い、袋に詰めた醪の自重のみでお酒を搾る「無加圧採り」などにも取り組んでいます。

ジューシーで米の旨みが全開

今回のお酒は無濾過生原酒。バナナや若いメロン、瓜を思わせる香りが特徴的でした。口に含むと麦チョコのような甘苦味が感じられ、その後きれいで爽やかな酸味がバランスを整えてくれます。精米歩合80%ということで、米の旨みが全開。しかし雑味は感じられず、ジューシーでトロッとした舌触りが印象に残りました。

このジューシーさはやはり「風の森」に通じるものを感じますね。五百万石を使ったお酒としては良い意味で個性的な味わいですが、ブラインドで飲んだ時に精米歩合80%と感じる方は少ないでしょう。お燗にすると酸味と切れ味が増し、より美味しく呑めました。

合わせる料理は洋食。ビターな香味があるので、ナッツ類やチーズ、スモークサーモンなどの燻製類も合うでしょう。和食なら、お好み焼きやたこ焼き、焼きそばなどと相性が良いかもしれません。一升瓶で2500円とコスパも良く、パーティーやバーベキューなどで気軽に飲む日本酒としてもおすすめです。