「ようこそ、SAKE REVOLUTIONへ!今週もSAKEのすべてを、楽しくわかりやすくお伝えします!」
毎週水曜日に、いつものフレーズと軽快な音楽とともに始まるアメリカ初のSAKE専門のポッドキャスト「SAKE REVOLUTION」は、日本酒やSAKEにまつわる素敵なトークを全世界に向けて発信しています。
ポッドキャストのホストは、“SAKEオタク”のジョン・プーマさん(以下、ジョン)と“酒サムライ”のティモシー・サリバンさん(以下、ティム)です。
「SAKE REVOLUTION」は約30分間のトークショーで、味わいの紹介だけでなく、製造方法や背景なども含めてわかりやすく解説しているのが特徴。2022年3月には、記念すべき100回目のポッドキャストを公開しました。
SAKEに特化したポッドキャストを始めたきっかけや今後の展開などを、ジョンとティムにうかがいました。
人生を変えた日本酒との衝撃的な出会い
ジョンが日本酒と出会ったのは2006年のこと。旅行で滞在した日本で、たまたま日本酒を勧められて飲んだのがきっかけです。ワインでもない、ビールでもない、それまで味わったことのない日本酒の新鮮な味わいにとても驚いたのだそう。
それからどっぷりと日本酒にはまり、日本酒/SAKE専門のウェブサイト「TheSakeNotes.com」を立ち上げ、地元・ニューヨークの日本酒バーや和食レストランを紹介するようになりました。さらに、日本酒のおいしさを広めるために数々のイベントをニューヨークで開催します。
現在は、資産投資会社のITディレクターとして働きながら、ネットコミュニティサービス「Discord」のSAKEチャンネルの管理人も務めています。
ティムにとって初めての日本酒体験は、2005年、ニューヨークの和食レストランでのこと。それはまさしく「AHA Moment!(突然のひらめきや出会いの瞬間)」だったそうです。
日本酒の魅力にすぐに引き込まれたティムは、日本酒の情報を集め、それらを記録するために日本酒/SAKE専門のウェブサイト「UrbanSake.com」を立ち上げます。
UrbanSake.comのデータベースには、日本を含め、世界中の酒蔵と各酒蔵の主要銘柄の情報がまとめられています。銘柄名は英訳されていて、たとえば、「天鷹」であれば、「“天鷹(Tentaka) ─ Hawk in the sky”」のように、造り手が銘柄に込めた想いが日本語を母国語としない人たちにも伝わるように工夫されています。
このようにアメリカで日本酒やSAKEの魅力を広めた功績は、たちどころに日本にも伝わり、2007年に「酒サムライ」の称号を授かりました。
ティムの活動は、アメリカだけにとどまらず、2016年には日本を訪れ、新潟県の八海醸造で蔵人として1年間働きました。この酒造りの現場を実際に経験して、ティムの日本酒の解説はさらに深みを増していきます。
現在は、八海醸造のブランドアンバサダーを務めながら、日本酒/SAKEの教育者として、アメリカを忙しく飛び回っています。
SAKEに関わることのすべてを伝えるポッドキャスト
ニューヨークを拠点に、ウェブサイトやイベントを通して、それぞれで日本酒/SAKEを広めるための活動を行なっていたジョンとティム。
ふたりがアメリカ初のSAKE専門のポッドキャスト「SAKE REVOLUTION」を始めるようになったのは、日本酒バーで一緒に話したときに、日本酒の素晴らしさを広めたいと思っていた熱い想いが共鳴したからでした。
記念すべき第1回の配信は、2020年1月でした。「SAKE REVOLUTION」で取り上げる話題は、日本酒とSAKEに関わることのすべてです。原料となる酒造好適米や、その製造工程、蔵元のインタビューや酒対談など、トピックが多岐にわたるからといって配信の内容が薄まることもありません。
松浦酒造の蔵人であるハナ・カシュナーさんとの対談では、「どんな方法で搾っているの?ヤブタ搾り?それとも、槽搾り?」と、実体験に基づいた専門的なトークが繰り広げられました。八海醸造で蔵人を経験したティムの豊富な知見が発揮されるシーンです。
トークの途中には、ジョンが絶妙なタイミングで合いの手を入れて、日本酒/SAKE初心者たちが疑問に思うポイントで質問をしてくれます。専門的、かつ、バラエティに富んだトークだからといって、リスナーを置いてけぼりにしないのが「SAKE REVOLUTION」の良いところです。
「SAKE REVOLUTION」は一方通行のショーではなく、リスナーとの距離が近いのも特徴のひとつ。毎月開催されるオンライン飲み会「SAKE REVOLUTION Happy Hour」では、ジョンとティムに直接質問をすることができます。もちろん日本からも参加可能です。
アメリカでのSAKEのシェアを引き上げるために
ポッドキャストのタイトル「SAKE REVOLUTION(=SAKEの革命)」には、「アメリカのSAKEシーンを大きく変えていく」というティムの熱い想いが込められています。
現在、アメリカの全アルコール飲料に占めるSAKEのシェアは、出荷量ベースで0.2%。「これを5倍の1%まで引き上げる」のが、ティムとジョンの目標です。まさしく革命的な挑戦ですが、「きっとすぐに達成するよ。僕がSAKEに出会ったころに比べると圧倒的な勢いを肌で感じるんだ」と、ジョンは前向きに捉えています。
「SAKE REVOLUTION」が掲げるミッションを尋ねると、ティムは「自分たちのように運命的にSAKEと出会ってしまった人たちを、SAKEの世界へと正しく誘うこと。そして、SAKEの成長を助けて、大きな革命へと繋いでいくこと」と話してくれました。
「SAKEを単なるおいしい飲みものとしてだけでなく、その背景にある職人技や醸造への想い、酒蔵の歴史なども紹介したいんだ。背景がわかることでSAKEの楽しみがさらに増えるからね」と、ジョンもティムも口をそろえます。
たとえば、蔵元インタビューシリーズでは、「蔵元の話したいことを、話したいだけ話してもらう」というやり方をあえて選んでいます。使っている酒米のこだわりについて語る蔵元もいれば、何百年にも渡る酒蔵の歴史について語る蔵元もいます。そのどちらも良しとするのが、「SAKE REVOLUTION」の考え方です。
「SAKEの成長を助けるために『SAKE REVOLUTION』を情報発信のプラットフォームとして使ってほしい」と、ティム。もちろんこのプラットフォームは、酒蔵以外の小売業やメディアの人たちが使うのも自由です。興味がある方は、ジョンとティムに連絡をとって、革命の一端を担ってみるのも面白いでしょう。
タイムリーなSAKE情報を英語で配信
「SAKE REVOLUTION」は、もちろん日本のリスナーにとっても有益なものです。まず、うれしいのが、アメリカのタイムリーなSAKE情報を知ることができる点です。
「毎週、新しいトークを公開しているんだ。ニューヨーカーであり、“SAKEオタク”と“酒サムライ”である僕らからの現地情報をぜひとも聞いて欲しい!」とティムは熱く話してくれました。日本酒ファンだけでなく、販売や輸出など日本酒のビジネスに関わっている人たちにとっても、彼らの話す話題は非常に希少な情報といえるでしょう。
次に重要なのは、日本酒とSAKEに関する英語を学べる点です。ポッドキャストで語られる話題は、配信後に英語のテキストとしてまとめられます。
「一手間かけてでも、すべての配信内容を文字起こししているのは『SAKE REVOLUTION』だけだよ!」と、ジョンもティムも胸を張ります。
日本の蔵元がゲスト出演した場合は、その内容を全て英訳したあとに文字起こしを行います。日本酒やSAKEのような専門用語が頻出するジャンルの翻訳では、機械翻訳はまだまだ十分とはいえません。日本語の音声で聞いた内容を英語で読み直すことができるのは、英語で日本酒/SAKEについて学ぶ人たちにとって最高の教材になります。
酒蔵がつくる英語圏向けのウェブサイトや訪日外国人向けのラベル制作などでも、「SAKE REVOLUTION」の文字起こしされたテキストは重要な役割を果たすでしょう。
ふたりのSAKEの革命は始まったばかり
2022年3月に記念すべき100回目のポッドキャストの公開を行った「SAKE REVOLUTION」。でも、まだこれも革命までの通過点です。
「話したいことがまだまだたくさんあるんだよ。いくら話しても話題は尽きないね」と、意気込みを語るジョン。すでに制作を進めている数十を超えるトピックが公開されるのを待っています。今後は映像を交えた配信や、新型コロナウイルスの感染拡大が収まれば、日本からの配信も視野に入れているとのことでした。
“SAKEオタク”のジョンと“酒サムライ”のティムが起こす革命(=SAKE REVOLUTION)から、今後も目が離せません。
◎取材協力
(取材・文:浜田庸/編集:SAKETIMES)