日本酒ブームといわれる現在、大手酒造メーカーのお酒は時に批判的な評価を受けることもありますが、その技術は本物だと考えています。

明治時代、地方の酒蔵は「どうしたら灘酒に勝てるのか」が大きな課題でした。その結果、全国清酒品評会が開催されるようになり、明治から大正期にかけて日本酒の品質向上につながったという歴史的事実は意外に知られていません。

今回は、灘の大手を代表する3蔵の市販酒「白鶴」「剣菱」「菊正宗」の3銘柄をテイスティングしました。それぞれ使用されている酒母が異なっています。

白鶴 特選 (速醸もと)

国内屈指の生産量を誇る白鶴酒造。本銘柄は、非常にまとまりが良くバランスの取れた醇酒で、幅広い料理に合わせられる1本ではないでしょうか?

日本酒テイスティングデータ
銘柄白鶴特撰 (特別本醸造・兵庫県・灘)(速醸もと)
香り華やかな香り(1~10)1銘柄の写真(白鶴酒造HPより引用)
爽やかな香り(1~10)2 
穏やかな香り(1~10)4
ふくよかな香り(1~10)4
味わい甘味(1~10)3
酸味(1~10)3
苦味(1~10)3
旨味(1~10)4
テイスティング者コメント香り主体となる香り原料香主体、淡いハーブの香り
感じた香りの具体例炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、い草、グレープフルーツ、杉、スペアミント、クレソン
味わい甘辛度中程度
具体的に感じた
味わい
柔らかくなめらかなテクスチャー、ふくらみがありなめらかな旨味が主体、後味はキレ良くスッキリ、含み香はクレソンやスペアミントを思わせる。
このお酒の特徴非常にまとまりが良く、バランスの取れた醇酒
4タイプ分類醇酒
飲用したい温度20℃前後、または45℃前後
温度設定のポイントひやにて柔らかくキレの良い味わいを引き出すか、燗にてふくらみがありなめらかな味わいを引き出すか
この日本酒に合わせてみたい食べ物まぐろの赤身の造り、紋甲イカの造り、イカフライ、鯛の塩焼き、豚の塩焼き、焼き鳥等

※本フォーマットは「SSI日本酒香味評価総合データベース酒仙人」のテイスティングフォーマットを参考に、新たに作成したものです

剣菱 特選 (山廃もと)

古くは「辛口の剣菱」が代名詞となっていましたが、現在の剣菱は甘口の日本酒になっています。山廃もとの本来の味わいとはこういうものなのか、と客観的に感じることができました。

日本酒テイスティングデータ
銘柄剣菱 特選 (特別本醸造・兵庫・灘)(山廃もと)
香り華やかな香り(1~10)1銘柄の写真(剣菱酒造HPより引用)
爽やかな香り(1~10)2 
穏やかな香り(1~10)4
ふくよかな香り(1~10)4
味わい甘味(1~10)4
酸味(1~10)3
苦味(1~10)3
旨味(1~10)4
テイスティング者コメント香り主体となる香り原料香主体、淡い柑橘香とハーブ香
感じた香りの具体例炊いた白米、ヨーグルト、マシュマロ、ウェハース、スペアミント、クレソン、甘夏蜜柑、杉、若草
味わい甘辛度やや甘口
具体的に感じた
味わい
ふくらみがありなめらかなテクスチャー、ふくらみがありなめらかな旨味が主体、後味のキレは良い、ヨーグルトやスペアミントを思わせる含み香
このお酒の特徴ふくよかでなめらかな味わいの醇酒
4タイプ分類醇酒
飲用したい温度20℃前後、または45℃前後
温度設定のポイントひやにてふくらみがありなめらかな味わいを引き出すか、燗にてふくよかで濃醇な味わいを引き出すか
この日本酒に合わせてみたい食べ物プレーンオムレツ、かつ丼、ハヤシライス、舌平目のクリーム煮、サーモンの造り、サバのきずし、鯖の塩焼き、さんまの塩焼き等

菊正宗 特選 (生もと)

現在、「上撰」以上の日本酒はすべて“生もとづくり”をしてる菊正宗。生もとに関しては日本で一番とも思える技術を持っています。

日本酒テイスティングデータ
銘柄菊正宗 特選 (特別本醸造・兵庫・灘)(生もと)
香り華やかな香り(1~10)1銘柄の写真(菊正宗HPより引用)
爽やかな香り(1~10)2 
穏やかな香り(1~10)3
ふくよかな香り(1~10)3
味わい甘味(1~10)3
酸味(1~10)4
苦味(1~10)4
旨味(1~10)4
テイスティング者コメント香り主体となる香り原料香主体、淡いハーブの香り
感じた香りの具体例炊いた白米、ヨーグルト、マシュマロ、クレソン、若草、若竹、夏蜜柑、スペアミント、グレープフルーツ
味わい甘辛度やや辛口
具体的に感じた
味わい
キレ良くふくらみのあるテクスチャー、ふくよかでなめらかな旨味が主体、後味はすっきりキレる、クレソンやスペアミントを思わせる含み香
このお酒の特徴ふくよかでなめらかな味わいの醇酒
4タイプ分類醇酒
飲用したい温度20℃前後、45℃前後
温度設定のポイントひやにてキレ良くふくらみのある味わいを引き出すか、燗にてふくよかでスッキリした味わいを引き出すか
この日本酒に合わせてみたい食べ物鯛の薄造り、桜鯛の天ぷら、穴子の天ぷら、鰻の蒲焼、海老天丼、かき揚げそば等

大手蔵の実力を再確認

今回、灘を代表する3銘柄の日本酒をテイスティングし、改めて灘酒の市場での強さを実感しました。

大手に対して一部からは批判的な評価を受けることもありますが、実際には「きちんと売れる日本酒を、食中酒として高い次元で造っている」というのがテイスティングしたうえでの私の評価です。

日本酒ブームと言われる今だからこそ、専門家やファンが大手蔵の市販酒を改めて利き酒すると、その高い酒質に驚くことでしょう。そして、本来の日本酒の味わいをもう一度理解することにつながるかもしれませんよ。

(文/石黒 建大)

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