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東日本大震災による蔵の流失から5年。復興を遂げた赤武酒造の軌跡

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2年前に登場し、全国の有力酒販店が続々と取扱いはじめている注目銘柄「赤武(あかぶ)」をご存知でしょうか。

造っているのは岩手県大槌町の赤武酒造。東日本大震災で蔵が完全流失してしまいましたが、2013年に盛岡市内に新しい醸造蔵を建て復活を遂げます。そして翌年、新銘柄として「赤武」を立ち上げ、2年目の今季、一躍脚光を浴び始めています。

東日本大震災を乗り越えて、酒造りを再開した赤武酒造

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津波で蔵が流失してしまった赤武酒造。蔵元の古舘秀峰さんは2011年秋からの酒造りに向けて、岩手県内で設備を貸してくれる酒蔵を探し回りました。

設備の稼働率が低い酒蔵もいくつか心当たりがあったので「造りの期間中、一時期だけでも貸してくれるところがあるのでは」と期待していたのですが、他の蔵人が立ち入ることに抵抗を感じる蔵も多く、なかなか見つかりませんでした。

ようやく盛岡市の桜顔酒造が「酒造りを一緒にやるという形でなら」と手を差し伸べてくれ、赤武酒造の代表銘柄「浜娘」は2011年冬も途絶えることなく造ることができたのでした。

ですが、古舘さんにはもう一度蔵を建てる気持ちはありませんでした。「新しく蔵を建てるお金などない。使っていない酒蔵を借りるしかない」と考えていたそうです。

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ところが、岩手県の酒造組合から「被災した酒蔵が結束して国に申請すれば建設資金の75%を補助してもらえるかもしれない」との話があり、半信半疑ながらそれに加わったのです。結果、資金の補助が認められ、さらに不足分は国から借りられることになりました。

ただ、新しい蔵を大槌町に再び建てることは無理でした。町が住宅の復興を優先していたためです。そのため、盛岡市の郊外に新しい蔵の建設を決め、2013年夏に完成しました。

被災後、3造り目にして、自前の蔵で「浜娘」の醸造が始まりました。

新銘柄「赤武」が誕生!造るのは当時22歳の長男

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2014年の夏、被災時には東京農業大学の学生だった長男の龍之介さんが岩手に帰ってきました。他の酒蔵で短期間ながら酒造りを学び、さらに酒類総合研究所の醸造研修を受けてからの帰蔵です。その研修時に龍之介さんらが数人で造ったお酒を呑んでみて、父の秀峰さんは「なかなかいける」と驚いたそうです。

取り引きしている首都圏の有力酒販店から「浜娘はちょっとインパクトが足りない。復興を応援しようという人たちがいる間はいいが、長い目で見ると他の銘柄との競争に生き残れるかどうか。もっと個性のある酒を造ってくれないか」と要望をもらっていたころ。秀峰さんは「ちょうどよい巡りあわせ。息子に浜娘の酒質とは異なる酒を造らせて、新しい銘柄を立ち上げることにしよう」と決意しました。

それが「赤武」でした。

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秀峰さんの英断に取引先の反応はまちまちでした。「まだ22歳なんでしょ?大丈夫?」と不安がる店主もいる一方、「面白い。取り扱うから必ず送ってくれ」と意欲を見せる店主も。当の龍之介さんは「必要な設備はほぼ整っているので、まずい酒は造れない。特に麹だけは自分で全部面倒を見る」との覚悟で臨みました。

できあがったお酒を味わって秀峰さんは合格点だと話しますが、龍之介さんの評価は50点。「ただ、課題ははっきりしているので、2年目はさらによくなる」と手ごたえは感じたようでした。

酒販店も「1年目としては十分の仕上がりだけど、来季はもっとよくしてほしい」という反応もありましたが、それでも15店ほどが取り扱いが決まり、「赤武」の名前は首都圏でも順調に浸透していったのです。

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そして2015年。2年目の造りが終わりました。

できあがった「赤武」は、間違いなく1年目より進化を遂げており、適度な香りにバランスの良い旨味が踊る美酒に仕上がっていました。酒販店の反応もよく、次々と新規契約の申し込みが入り、特約店の数は30軒を越えました。

龍之介さんは「1年目の課題をすべてクリアできた。また、来季以降の課題も見えている。今後、数年間は毎年酒質を改善し、進化を続けて日本酒業界のトップランナーに加わりたい」と意欲を燃やしています。

全国新酒鑑評会で金賞獲得する若き実力派!

たかだか造りを2回やっただけで美酒とは褒めすぎ、との声も上がりそうですが、お酒のレベルを裏付けるお墨付きがあります。2016年5月に開かれた全国新酒鑑評会で、龍之介さんが造りに加わった「浜娘 純米大吟醸」が金賞を獲得したのです。

一般的に、金賞を獲得しやすいお酒のスペックは、酒米に山田錦、酵母は協会1801号、醸造アルコールを添加、この3点を守ることと言われています。ですが、今回赤武酒造が出品したのは、酒米には岩手県産の「結の香(40%精米)」を、酵母も岩手県が開発した「ジョバンニの調べ」を使い、さらに醸造アルコールを添加しない純米大吟醸だったのです。

今年は約800蔵が出品し、うち120蔵ほどが金賞を獲得していますが、山田錦以外の純米大吟醸で金賞を獲得したのはわずか10蔵です。そのひとつに龍之介さんが造ったお酒が入ったことは、彼の酒造りへのセンスの良さが表れているのではないでしょうか。

龍之介さんは「金賞をもらったのはうれしいですが、今回がフロックと言われないためにも、来年も金賞を目指して頑張らなければならなくなりました。正直、気が重いです」と複雑な心境のようでした。

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秀峰社長は「赤武を岩手を代表する人気銘柄に押し上げることが当面の目標です。それが実現したら、次はもっと高い目標を掲げます」と話していました。赤武酒造のこれからに目が離せません。

(文/空太郎)

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空太郎

日本酒指導師範(菊正宗認定)&酒伝道師です。 1年365日、日本酒を飲んでいます。 10人未満で丁寧にお酒を醸す銘酒小蔵がたくさん存在することが、 日本酒の多様性と魅力を維持するのには欠かせないと思っています。 そんな酒蔵の活動や、それを応援する酒販店や居酒屋の動きを お伝えしていきます。