日本酒を造るときに使う酒造りに適した米のことを「酒造好適米」、一般には「酒米」と呼びます。原料米の種類が日本酒のラベルに書かれていることもあり、「山田錦」や「五百万石」「雄町」という酒米の名前を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「酒造好適米」の特徴と、その代表的な銘柄についてご紹介します。

「酒造好適米」と食用米の違い

日本酒の酒質にこだわらなければ、原料として使う米はどんなものでも構いません。ですが、おいしいお酒を造るにはそれに適した米が求められます。農林水産省の農産物規格規定では、酒造りに適した米のことを食用米と区別して「醸造用玄米」と分類しています。

「醸造用玄米」、つまり「酒造好適米」に求められる特徴は、以下の通りです。

心白(しんぱく)がある

心白」とは、米の中心部にある白く不透明な部分のこと。でんぷんに隙間ができたもので、光が屈折するので白くこもって見えます。

心白のある米で麹を造ると、この隙間に麹菌の菌糸が入り込み、米の内側で繁殖してでんぷんの分解を進めます。また、心白のある米で仕込むと吸水性がよいため、もろみが溶けやすくなります。食用米には、この心白がほとんどありません。

タンパク質や脂質が少ない

タンパク質や脂質は、ごはんとして炊くと旨味を引き出しますが、酒造りにとってはやっかいな存在です。

タンパク質が多いと雑味の原因になり、脂質が多いと日本酒らしい香気成分の生成を邪魔します。そのため、酒造好適米は低タンパク・低脂質がよいとされています。

粒が大きくて砕けにくい

酒質を劣化させるタンパク質や脂質は米の外側に多く分布するため、酒造りでは精米作業で米の表面を多く削ります。

食用米の精米歩合はおおよそ90%ほどですが、酒造りに使う酒造好適米の精米歩合は高く、通常で70%前後、吟醸酒などは60%以下まで削ります。米粒の大部分を削るため、酒造好適米は大粒で砕けにくいことが求められます。

代表的な「酒造好適米」

現在栽培されている酒造好適米は、およそ100種類ほど。それぞれさまざまな特徴を持ち、同じ品種でも栽培する土地や気候条件によって品質は変化します。

酒造好適米はたくさんありますが、その中でも特に有名なものを見ていきましょう。

酒米の王様「山田錦」

山田錦」は、酒米に必要な特徴を高いレベルでバランスよく備えていることから、「酒米の王様」と呼ばれています。

「山田錦」は「山田穂」を母に、「短稈渡船(たんかんわたりふね)」を父として交配され、大正12年(1923年)、兵庫県立農事試験場で誕生しました。穂の背丈が高く、収穫時期が遅いため、台風の通り道となっている地域や東日本では生産には向かないとされてきました。

現在では、東北地方から九州まで広く栽培されていますが、作付面積の8割は兵庫県でつくられています。中でも兵庫県北西部(三木市や加東市の一部)は「特A地区」と呼ばれ、最も良質の「山田錦」を生産しています。

とても大粒で心白発現率は約80%程度。酒質としては香味に優れ、まろやかなお酒になると言われています。甘・辛・酸、すべてのバランスが良く、うまみが同心円状に広がっていく印象です。全国新酒鑑評会などの出品酒をみると、「山田錦」で造られた大吟醸酒が数多く出品されています。

スッキリとした味わい「五百万石」

「山田錦」が「西の横綱」と呼ばれるのに対して、「五百万石」は「東の横綱」に位置する人気の酒米です。特性が安定しているこの2品種は生産量も多く、「山田錦」が全体の約4割、「五百万石」は3割弱を占めます。

「五百万石」は、小さめの粒で高精白には向きませんが、心白が大きく、麹菌が入り込みやすいのが特徴です。酒質は「山田錦」や「雄町」のような肉厚なものと違い、やや硬くてすっきりとしたキレの良い味わい。芯が強く、一世を風靡した新潟の淡麗辛口の酒を醸すにはもってこいの酒米でした。

1957年に新潟県の米生産量が五百万石(約75万トン)を達成したことを記念して、「五百万石」と命名され奨励品種となりました。新潟県の気候風土に適した栽培特性がある早生品種で、主要産地は新潟県のほか、福井県、富山県、石川県の北陸地方。そのほか、南東北から九州北部まで広範囲にわたって栽培されています。

安定した栽培特性と機械醸造への適応性により、2001年に山田錦に追い越されるまで、酒米の中で最大の作付面積を占めていました。

フルーティーな香り「美山錦」

長野県生まれの「美山錦」。名前の由来は、北アルプス山頂の雪のような美しい心白を持つことに由来します。

酒質としては繊細な香りを持ち、軽くすっきりとした味わいに仕上がることが特徴。バナナや完熟メロンのような、やや派手な吟醸香と、細身ながらフルーティーな味わいを感じられます。「五百万石」に近いですが、同米よりもやや華やかな香りです。吟醸酒や純米吟醸酒で、華やかな香りを楽しみながら軽快に飲むような酒に向いています。

生産量は「山田錦」「五百万石」に次いで第3位。「五百万石」と同じく、早く成熟する早生品種で、長野県を含めて東北、北陸、関東で幅広く栽培されています。

酒造好適米の源流「雄町」

雄町」は非常に溶けやすい米で、濃醇でしっかりしたコクと味わい深いお酒を生み出します。山田錦の味わいが同心円状に広がっていくとすれば、「雄町」は芯がしっかりとしたふくよかな旨みです。

ジューシーでインパクトがある味わいになりやすく、「雄町」で醸された個性あるお酒に魅了された人々は「オマチスト」と呼ばれているほど。「雄町」の歴史は古く、「山田錦」や「五百万石」を含め、現存する酒米の血統を遡ると、その多くは「雄町」へとたどり着きます。

約160年前の1859年(安政6年)に旧備前国 上道群雄町村(現岡山市中区雄町)の篤農家によって発見され、1866年(慶応2年)に「二本草」と命名。1908年(明治41年)には岡山県の奨励品種となります。

穂丈が180㎝近くまで育つため倒れやすく、病害虫にも弱いため、戦後、農作業の機械化が進む中で、栽培が難しいと生産量が激減します。昭和48年(1973年)には作付面積が約3ヘクタールにまで落ち込み、幻の酒米と呼ばれるようになりました。

しかし、「酒一筋」を醸す利守酒造の4代目・利守忠義氏が、昭和40年代後半に雄町の復活へ動きます。栽培が難しいため渋る篤農家を説得し、栽培を再開。現在、「雄町」の中でもブランド米として知られる「赤磐雄町(あかいわおまち)」を生み出しました。

日本酒選びは、米選びから

日本酒造りの原料となる「酒造好適米」は、酒の味わいに大きく影響する要素のひとつです。

最近では「山田錦」や「五百万石」のような代表的な酒造好適米以外に、古い品種を復活させたり、地方自治体が独自に新品種を開発したりと、酒造りに使われる米の種類は増えています。また、タンパク質や脂質の多い食用米の特徴を活かして個性的な酒を造る酒蔵も現れています。

日本酒を購入する際にラベルに書かれている米の種類に注目すると、自分の好みのお酒を選びやすくなり、日本酒の楽しみ方も広がります。

(文/SAKETIMES編集部)

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