長野県の若手蔵元ユニット59醸のメンバー

長野県北部の若手蔵元後継者5人が結成した酒蔵ユニット「59醸(ごくじょう)」。参加者全員が昭和59年度生まれの同級生ということで名付けられました。

参加しているのは、

の5人です。

毎年異なるテーマを決め、5人がそれぞれ独自の造りにチャレンジしています。そして5季目のお酒の完成に伴い、リリースイベントが開催されました。

5季目のテーマは「道なかば」

2018年搾り、第五シーズンの59醸

59醸プロジェクト5年目となる今季のテーマは「道なかば」。その趣旨を村松さんは次のように話しています。

「59醸のプロジェクトは結成当初から10年間で終了と決めており、今年は5年目の折り返し地点なので、『道なかば』をテーマにしました。今回の酒造りは、私たちにとって"中間テスト"という位置付けです。

酒米を毎年変えており、今回は長野県が開発したばかりの信交酒545号(山恵錦:さんけいにしき)の59%精米を条件にしています。さらに、それぞれの蔵が1年目に使った酵母で醸すことにして、ゴクジョウ(極上)の酒造りに挑むことにしました」。

メンバーはどのようにして酒造りに臨み、5季目の「59醸」はどのような出来栄えになったのでしょうか。誕生日順にご紹介します。

北光正宗は「"らしくドライ"で上出来な中間テスト」

村松裕也さん(飯山市/角口酒造店「北光正宗」) ・7月31日生まれ

「山恵錦は前年に初めて使いましたが、まだまだ慣れていないので、手探りの状態で造りに臨みました。

1年目に使用した酵母を使うという条件ですが、僕としては1年目と5年目でどれだけ進化したかを実感したかったので、麹に使う種麹や種切りする量も同一にしています。

山恵錦は複雑な味わいを秘めています。長野県の主流の酒米である『ひとごこち』よりは硬いけど、美山錦よりも軟らかい印象でした。

味を乗せようと思うと不要な味が加わる恐れがある一方で、締めすぎると味がスッカスカになってしまう恐れがあります。慎重に醪を管理しました。

搾る段階では日本酒度をプラス7まで切れさせて、うちらしいドライな味わいをベースに山恵錦らしい複雑な旨味を乗せることで、中間テストとしては上出来なお酒を造ることができました。今後は、山恵錦をもっと使いこなせたらと思っています」

勢正宗は「チャレンジが生んだ、個性派辛口」

関晋司さん(中野市/丸世酒造店「勢正宗」)・10月21日生まれ

「うちの酒造りの特徴は、3段仕込みの後に蒸した熱いままのもち米を4段目として入れて、独特の甘さを表現することです。これまでも59醸では、もち米以外の米や麹米を投入するなど、普段とは違う造りをやってきました。今回は別に造った酒母を4段目で入れることに挑戦しています。

酒質も蔵の定番の味わいではなく、辛口をベースに酒母4段による甘味、旨味、酸味を加えることで個性を追求しました。そのため、4段目の酒母にはリンゴ酸高生産性酵母を採用しています。

酒母を4段目で投入するのは初めての経験なので、酵母が醪の中で増えた際にどんなことが起きるのかイメージしづらく、いつ投入するかを悩みましたね。結果として、いつものうちのお酒と同じ、搾る5~6日前に投入しました。

搾ったお酒は思ったより若かったので、生のまましばらく貯蔵して、味が乗ったところで火入れをしました。当初のイメージよりも辛口に仕上がり、酒母4段の難しさを痛感しています」

福無量は「5合目過ぎ、高山植物が咲き乱れるイメージで」

沓掛正敏さん(上田市/沓掛酒造「福無量」)・11月13日生まれ

「道半ばというテーマを登山にたとえて、五合目を過ぎた高層湿原で多くの高山植物が咲き乱れる様を、華やかな味わいと香りのお酒で表現してみようと考えました。

ところが、うちの蔵が1年目の59醸で使った『きょうかい9号』は、華やかな香りを出しづらい酵母なので、そこが悩みどころでしたね。普段、うちの蔵の麹造りは麹菌が全体に繁殖する総破精系ですが、香り高くさっぱりとした吟醸酒にするために、麹菌が米の内部まで深く繁殖する突き破精を狙いました。

また、9号酵母は酸が出やすいので、酸を抑えるためにさまざまな工夫をしました。ただし、山恵錦は淡白な仕上がりになりがちなので、行き過ぎないようにコントロールして、香りの立つ甘口のお酒にしています。うちの蔵は弟(沓掛浩之さん)が杜氏で、僕の担当は経営面なので、1年目は右も左もわからない状態でした。

その後は造りを手伝う頻度も増えて、5年目となる今回はある程度納得できるお酒になったかなと思います」

本老の松は「搾って驚き、華やか&ジューシー」

飯田淳さん(長野市/東飯田酒造店「本老の松」)・11月24日生まれ

「将来、山恵錦は長野県を代表する酒米になる期待感もあって、大吟醸を造るように繊細な造りを心がけました。

使う酵母が長野C酵母なので、当初は辛口に引っ張りたい気持ちもありましたが、結局は芳醇でジューシーなお酒を造ることに決めました。

搾ってみると、予想以上に香りが良く出ているお酒に仕上がりました。香りをしっかりと残すために、全量瓶に詰めてから火入れ(瓶燗)をしています。冷やして飲むのがおすすめです」

積善は「きれいで旨い、納得の中間テスト」

飯田一基さん(長野市/西飯田酒造店「積善」)・4月1日生まれ

「5年間で1番難しい造りになったと思います。山恵錦は前年に初めて使いましたが、味の中核になる部分がぼんやりする印象があり、さまざまな対策を練りました。

もともと、私たちのお酒は苦味と渋味が多めに出る傾向があります。そのため、一部の仕込み水を軟水に切り替え、口当たりが軟らかくなるように工夫しました。さらに、グルコースをたくさんつくる種麹を採用することで、甘さを多めに出しています。

1年目の酒母は、オシロイバナの花酵母とベゴニアの花酵母を同量使ったものでした。今回は華やかな香りが特徴のオシロイバナを2、バナナ系の香りと爽やかな酸味が特徴のベゴニアを1とする配合で酒母を造りました。

その結果、きれいな味わいでしっかりと旨味もあり、納得の仕上がりです。1年目に比べれば、かなり上達したのではないでしょうか」

5本並べて、中間テストの採点者に!

今回の「59醸」のラベルには、それぞれの造りの概要が紹介されるとともに、右上に点数を書き込める欄を設けています。

「点数を書き込んだ上で写真を撮って、Instagramにあげてみてください」と、5人は口を揃えていました。


「59醸」は、いずれも720mlで税込1,800円です。5種を取り寄せて、本記事のインタビューを読みながら、飲み比べと採点を楽しんでみるのはいかがでしょうか。

(取材・文/空太郎)

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