国内シェアの約3割を誇る、業界第2位のガラスびんメーカー・東洋ガラス。手のひらサイズの小びんから一升びん、カラフルなびんまで、多種多様なびんを製造している企業です。
そんな東洋ガラスは、中小酒蔵向けにオリジナルブランド「衣玻璃(きぬはり)」を展開しています。あらかじめ、桜や紅葉などのデザインが印刷されており、お客様のラベルを貼るだけで華やかな商品が完成するというブランドびんです。
今回は、「衣玻璃」が誕生した経緯と、その魅力について紐解いていきます。
繊細なデザインが美しい「衣玻璃」
東洋ガラスの創業は明治21年(1888年)。ガラスびんメーカーとして誕生して以来、100年以上もの歴史を誇ります。
「単なる容器としてではなく、生活に寄り添うパートナーでありたい」との想いで、酒類・食料・調味料・飲料など多くの分野に向けたびんを生産しており、機能性はもちろん、デザイン性にも優れた製品開発を進めています。
そして2014年、東洋ガラスは中小酒蔵向けのオリジナルブランド「衣玻璃」を発表しました。「玻璃」とはガラスの別称のこと。ガラス(玻璃)に意匠(衣装)をまとわせているから「衣玻璃」とは、なんとも美しく風流な名前です。
その名の通り、「衣玻璃」は全体にデザインが印刷されているガラスびん。「さくら」「もみじ」「涼」「寿」と季節を感じられる4種類のラインナップを展開し、そのデザインは毎年変わります。
また、受注生産のため、最小ロットで1ケース24本から注文することが可能。商品ラベルを貼るだけで、オリジナルデザインのお酒を手軽に導入できるのです。
きっかけは「印刷びん」と「中小酒蔵」への想い
それでは、どうして酒蔵に向けて「衣玻璃」を開発したのでしょうか。そのきっかけは、ふたつありました。
ひとつは、「印刷びんをもっとたくさんの人に楽しんでもらいたい」という想い。東洋ガラスが誇る高い印刷技術をもってすれば、びんで表現できることはさらに広がります。「衣玻璃」にその技術を注ぎ込み、びんの持つ可能性や魅力を広めていくことが最初のきっかけでした。
もうひとつは、中小酒蔵に対する想いです。
「びんをきっかけにお酒に興味を持つこともあると思います。ただ、出荷数がそこまで多くない中小規模の酒蔵さんは、コストやロットがネックとなり、なかなかオリジナルのびんに手を出すことができません。そこをお手伝いしたいと考え、当時の企画開発部のメンバーが『衣玻璃』を開発しました」
そう話すのは、当時の想いを引き継ぎ、現在「衣玻璃」の開発を担当する企画開発部(当時)の青木美結さんです。
東洋ガラスでは、酒類用のびんも多く製造しています。清酒・焼酎業界の動向を見つめる中で、「ガラスびんでなにか貢献できることはないか」と考え、小ロットでの受注生産方式を発案。
通常、自社オリジナルの印刷びんを作ろうとすると、最小ロットで1万本ほどを注文する必要がありますが、「衣玻璃」なら、わずか24本から注文することができます。
「衣玻璃」は、印刷びんと中小酒蔵への強い想いから生まれたブランドなのです。
「季節ごとの楽しみ方を表現したい」
今年で誕生から7年目を迎える「衣玻璃」。もっとも力を入れているのが、そのデザインです。
東洋ガラスの自動印刷機は、8版まで印刷することができるという業界唯一の技術。印刷機の強みである多色を使用した広範囲への印刷、中味を入れた際の映り込み、ラベルとの相性、汎用性など、さまざまな面を考慮してひとつのデザインが決まります。
「『衣玻璃』のデザイン決めは、毎年、企画開発部全員で取り組んでいます。デザイナー全員が4アイテムに対して案を出し合い、その案をもとに投票や話し合いを重ね、ようやくひとつのデザインに決まるんです」と、デザイナーを務める横山史歩さん。
入社1年目からベテランの部長まで、社歴も経験もさまざまなメンバーが所属している企画開発部で、お客様の声や時流、「衣玻璃」らしさなどの観点からデザイン案を検討。全員が納得のいく結論にたどり着くまで議論が続きます。
また、春は「さくら」、秋は「もみじ」など、季節を感じられるデザインも「衣玻璃」の特徴のひとつです。
「花見酒やひやおろしなど、日本酒には季節ごとの楽しみ方があります。それをびんでも表現できればと、季節のデザインを取り入れてきました」と横山さん。
これほどのこだわりが込められている「衣玻璃」は、世界的なパッケージコンテストで3冠を成し遂げたことも。ガラスびんメーカーが単独で3つの賞を受賞するのは、業界で初めてのことでした。
過去には、高級感のある「寿」に縁起がいいとされる鯛や海老を小さく紛れ込ませるなど、"隠れキャラ"が入ったデザインもあり、隠れキャラ探しでお客様と会話が盛り上がったと、酒蔵からも好評だったそうです。
「『衣玻璃』はあくまで汎用びんであり、お客様のラベルとマッチするようにバランスを考えてデザインしています。また、『選ぶ楽しさをご提供したい』『より幅広くご使用いただきたい』という想いがあり、今年からオプションカラーの展開をはじめました」と語る横山さん。
あくまでも、酒蔵が造る中味のためのびんであることを忘れない。隅々にまで行き届いたこだわりに対する想いを、横山さんは次のように続けます。
「お客様がお酒を選ぶとき、最初に見て、そして触れるのは、外側にあるびんです。思わずお客様が手に取りたくなるようなびんをつくること。それが容器メーカーとしての使命であり、腕の見せどころだと思っています」
「衣玻璃」が、新しい魅力をつくる
江戸時代中期、寛政元年(1789年)創業の長野県・麗人酒造は、「衣玻璃」の4アイテムすべてを2015年から継続して導入している酒蔵です。
営業部の小口雅史さんにお話をうかがいました。
「『衣玻璃』のコンセプトを聞き、びんを見て、すぐに導入を決めました。麗人酒造では年に5回、お客様へダイレクトメールを発行しているのですが、どうしても企画がマンネリ化してしまうので、毎回"目玉"が必要です。そこで、『衣玻璃』の美しいびんでお客様の目を引きたいと思ったのがきっかけでした」
麗人酒造では、春に「紅麗花(くれか)」という桜色のにごり酒を販売しています。このお酒の別誂品には、「衣玻璃」の「さくら」のびんが使われていて、ピンク色のお酒に桜の花びらが重なり、素晴らしく華やかな一本です。
「毎年、春を楽しみにして、必ずご注文してくださるお客様がいらっしゃいます。『衣玻璃』のびんを店頭に置くと、手に取っていく方も多いですよ」
「衣玻璃」のデザインは季節を感じられるので、限定の商品に採用しているのだそう。ラベルもびんに合わせたデザインや形にして、さらにロットナンバーも印刷。このロットナンバーがさらに特別感を演出しているのか、ほとんどの商品が早々に売り切れるとのこと。
「『あのびんはきれいだったね』と、何年経っても覚えていてくださるお客様もいて、本当にうれしいです」と微笑みながら語る小口さん。
「デザインが変わるので、『今年はどんなデザインだろう』と毎年楽しみにしています。びんに目を留めて来店してくださるなど、新しいお客様の獲得にもつながっているんです。今後も導入していきたいですね」
びんをきっかけに"日本酒を選ぶ楽しさ"を
「びんの魅力をより多くの方に伝えたい」という想いを7年間紡いできた「衣玻璃」。「前年を超えるものを」と、試行錯誤しながら商品開発を続けてきたおかげでファンは確実に増え続け、現在、全国150蔵以上もの酒蔵が「衣玻璃」を導入しています。
「24本からの小ロットで注文できるのがうれしい」という酒蔵の声も多く、季節のお酒やギフト用など、限定品に使われることが多いとのこと。
「『このびんは捨てられません』という声をいただくと本当にうれしいですね。意外なところでは、飲み終えたびんを和らぎ水用の容器として使っている飲食店があると聞きました」と青木さん。
ガラスびんが華やかな意匠(衣装)を身にまとい、"選ぶ楽しさ"を提供している「衣玻璃」。単なるびん容器の枠を超え、清酒・焼酎の魅力を伝える一助となっている存在です。
「『衣玻璃』の魅力をさらに広げるためにも、新たな挑戦をしていきたい」というお二人の言葉からは、今後もますます進化を続けていくであろう「衣玻璃」の姿が浮かびました。
現在は「もみじ」「涼」「寿」の注文を受付中。24本から体験できるその華やかさに、ぜひ触れてみてください。
(取材・文/藪内久美子)
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