2020年2月8日(土)、渋谷スクランブルスクエアにて、20代限定の日本酒体験イベント「二十歳からの日本酒 2020 in 渋谷スクランブルスクエア」が開催されました。主催を務めるのは日本酒造組合中央会。「20代の若者に、自分たちの手で日本酒の魅力を発見してもらいたい」との思いから開催が決まりました。

「『美味しい!楽しい!わかりやすい!』からスタートする日本酒ライフ」をイベントのテーマとして、第1部ではセミナー、第2部はグループワーク、第3部では交流会が行われました。

抽選で選ばれた約100名の20代が集まり、大きな盛り上がりを見せた今回のイベント。その様子をお伝えします。

それぞれの立場から感じる"日本酒の魅力"

トークセッション

本イベントでは、部ごとにテーマが設けられています。第1部のテーマは「SAKEの魅力や愉しみ方を知る」。3名のゲストを迎え、トークセッションが行われました。

1人目はフリーアナウンサーの福澤朗さん。日本酒初心者のためのガイドブック「日本酒ビギナーズガイド」を執筆しているほどの日本酒好きです。2人目は、冬は蔵人として働き、夏には日本全国の酒蔵をめぐる旅をしている立川哲之さん。SAKETIMESライターとしても活躍しています。3人目は、愛媛県に蔵を構える石鎚酒造の専務取締役・越智浩さんです。

福澤さん

福澤さんは、2020年のオリンピックとパラリンピックをきっかけに、多くの外国人の来日が予想される中、「日本酒を嗜むひとりとしてなにができるのか」を話してくれました。

「みなさんが海外に行ったとき、その土地のものを味わいたいですよね。それと同じく、日本に来た外国人も和食を味わい、日本酒を飲みます。日本酒は国名が名前になっているくらいですから、『日本人ならみんな日本酒に詳しいだろう』と思われることも多いはず。日本酒について聞かれたとき、答えられるようになることは重要です。

また、日本酒は日本における神事や祭事と密接に関係しています。結婚式や鏡開きなどでも日本酒を飲むことがありますよね。なので、日本酒について学ぶことで、日本の文化や歴史も知ることができるんです。知れば知るほど楽しくなりますよ」

越智浩さん

石鎚酒造の専務取締役の越智さんは、蔵元からの目線で、季節ごとの日本酒の楽しみ方を話してくれました。

「日本には四季があります。その季節感を大事にして、日本酒で表現することを心がけています。その土地ならではの食材と地酒をあわせて、旬の味を楽しんでほしいですね。

今だと、搾りたての若々しい新酒がおいしい時期です。夏は暑いので、スカッとする爽やかなお酒がぴったり。秋になって肌寒くなってきたら、燗酒の出番です。季節にあわせてラベルを変えている蔵も多いので、ラベルに注目してみてもおもしろいですよ」

立川さん

立川さんが話してくれたのは、全国の酒蔵めぐりに踏み切ったきっかけと、日本酒との出会いについて。

「酒蔵めぐりは2年半ほど前からスタートしました。旅を始めたのは、大学生のときに東日本大震災のボランティアで行った陸前高田市で飲んだ日本酒がきっかけ。実は、その日まで僕は日本酒が嫌いだったんです。

しかし、祭りの宴会で『これ飲んでみ』と勧められた日本酒を飲んでみたら、本当に美味しかった。陸前高田市は津波の被害により、酒蔵も含め、すべてが流された町です。そのときに飲んだ日本酒は、被災してから約1年半後に建物を再建した蔵が造ったものでした。なにもなくなった町で、酒蔵がいち早く復活して、お酒を届けていたんです。

お酒を勧めてくれた方は、「おらの町の酒、世界一うまいから」と言っていて、すごくかっこよかったんですよね。日本酒は地域の誇りになると強く感じ、どんどん日本酒にのめり込んでいきました。全国47都道府県に日本酒を造っている蔵はあるので、ぜひ旅先や地元の日本酒を飲んでみてください」

福澤さんから、これまでに訪問した蔵の数を聞かれると、「現時点では、19都道府県627蔵をまわりました。まだ半分も行っていません。北から攻めているのですが、今日は西の蔵の方が多いですね。これから西の方もまわっていきますよ」と立川さん。「627蔵」という想像以上の数に、会場が沸き立ちました。

「飲み手としての未来の自分」に伝えたいこと

2部ディスカッション

続く第2部のテーマは、「私と日本酒の"今"と"未来"」。

それぞれが10グループに分かれ、ディスカッションを通して日本酒への思いや楽しみ方を共有し、3年後の自分に向けて手紙を書くというグループワークです。それぞれのグループには、同世代の日本酒オピニオンリーダーとサブリーダーがつき、両者を中心に意見が交わされました。

2部グループ

石鎚酒造・越智さんによる「夏は冷たいものを飲む機会が多いので、熱燗を飲むと健康にいい」という話を聞いた参加者は、「熱燗にしたらぐっと香りが出てきて、チーズとぴったりだった。チーズと熱燗のマリアージュが体験できた」と、体験談を語りました。

それに対して、リーダーが「マリアージュとはフランス語で『結婚』を意味する言葉で、食事との相性がいいということ」と説明を加えます。「3年後には、夏でもみんなが熱燗を飲んでいるかも」と、想像を膨らませる参加者もいました。

2部発表

グループワークが終盤に差しかかると、各グループで話し合った内容をリーダーがまとめて、発表する時間に。

「日本酒をまだ飲んだことがない人や、初心者にもっと飲んでもらうには?」「自分たちが好きなものと日本酒を掛け合わせたらどうなるか」「どんな日本酒ができたらうれしいか」など、さまざまな切り口から意見が挙がりました。

そして、第2部を締めくくるのは「飲み手としての未来の自分へ手紙を書く」というアクティビティ。就職や結婚、転職などの転機を想像しながら、3年後の自分に宛てて、どのような飲み手として日本酒を飲んでいるかを手紙に綴ります。

参加者は、「どんな日本酒を飲んでいる?」「今日いっしょに参加している恋人とはうまくいってる?」など、気になることを思い思いに書いていました。3年後の答え合わせは、どのような結果になっているのでしょうか。

充実した"日本酒ライフ"の第一歩として

3部パーティー

イベントの最後を飾る第3部は、「日本酒の魅力を体験する」をテーマとした90分間の立食パーティー。第1部と第2部で学んだことを、料理とのペアリングや利き酒、交流を通じて実際に体験します。

イベント挨拶

副委員長から、「1部のトークや2部のプレゼンなどから、みなさんの日本酒愛を強く感じました。我々、蔵元も勇気付けられた素晴らしい会になったと思います」と、乾杯の挨拶が行われました。いよいよ、パーティーの始まりです。

試飲ブース

利き酒コーナーには蔵元をはじめ、第2部のリーダーとサブリーダーの姿も。お酒を注ぐことをきっかけとして、交流ができるようになっています。

日本酒は香りと味わいから以下の4つに分類されており、その日本酒からイメージされる果物やハーブ、スパイスも添えられていました。

  • 香りの高いタイプ(りんご、メロン、ヒヤシンス)
  • 軽快で滑らかなタイプ(米粉、グレープフルーツの皮、ディル)
  • コクのあるタイプ(しいたけ、クリームチーズ)
  • 熟成タイプ(シナモン、干しぶどう、ヘーゼルナッツ)

日本酒の香りを「メロンみたい」などと表現することがありますが、今回は実物のメロンを手に取り、「そうそう、この香り!」と確認しながら香りの表現を知ることができました。日本酒の奥深さや多様性を体感できる、新しい形の利き酒です。

料理

また、第2部で書いた手紙を提出すると、料理研究家・北村みゆきさんが監修した、日本酒に合う4品のオードブルをいただくことができました。日本酒と4品のオードブルの相性について、北村さんは次のように話しています。

「『りんごのムースの生ハム巻き りんごジャム添え』は、ぜひ香りの高いタイプと合わせてみてください。フルーティーな香りに合わせてリンゴを使っています。軽快で滑らかなタイプの日本酒は、淡白な味わいの料理と相性がいいので、『スペイン風オムレツとオリーブのピンチョス グリーンのソース』がぴったりです。

コクのあるタイプの日本酒は、旨味があり、ふくよかな味わいが特徴。これには同じく旨味が強い『鶏肉と椎茸のパテ ホイップマスタードと共に』が合うと思います。

熟成タイプの日本酒には、『八角香る 焼豚の生春巻き』を合わせました。独特のスパイス感がある熟成酒は、紹興酒と似たところがあるので、中華料理と相性がいいんです。ぜひ、それぞれの組み合わせを試してみてくださいね」

参加者の様子

最後に記念撮影が行われ。イベントは終了。料理とのペアリングを探る方、日本酒の味わいや香りについてメモを取る方、蔵元さんと熱心にお話をする方など、さまざまな形で日本酒を楽しんでいる参加者の姿が印象的でした。

今回のイベントを通して、日本酒の新たな楽しみ方を知ったのはもちろん、同世代の日本酒仲間にも出会えたことでしょう。参加した20代のみなさんが、これから日本酒とどのような関わり方をして"日本酒ライフ"を楽しんでいくのか。未来が楽しみです。

(取材・文/大戸 麻矢)

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