栃木県が13年かけて開発した酒造好適米「夢ささら」。この新しい酒米を使って初めてできた日本酒が、栃木県の各酒蔵から一斉に発売されました。
山田錦を親に持ち、心白の大きい「夢ささら」
醸造に参加したのは、栃木県酒造組合に加盟している30余りの酒蔵のうち27蔵。各蔵とも足並みをそろえて精米歩合50~55%の純米吟醸酒を醸しました。
全国各地で新しい酒造好適米の開発が盛んに行われていますが、これだけ多くの酒蔵が同じ米で酒を造るというのは、非常に珍しい試み。「夢ささら」にかける栃木県の期待の大きさを物語っています。
「夢ささら」は、酒米の王様である「山田錦」を母に、病気に強い「T酒25」を父に、栃木県農業試験場が2005年から育成を開始した品種です。その後、10年以上かけて改良を重ねて、2018年2月に正式に品種登録されました。
開発中の名称は「栃木酒27号」でしたが、品種登録のタイミングで「夢ささら」と正式に命名。名前の由来は、酒造りに使う桶や樽を洗う時に昔使われた「ささら」という道具です。
「夢ささら」の特性は、強風でも倒れにくく、縞葉枯病(しまはがれびょう)に対して抵抗性があること。米の中心部分にある心白がはっきりしていて、酒造りに向いていること。玄米を削る際に砕けにくいため、大吟醸酒造りに適していることだそうです。
「夢ささら」に可能性を感じた蔵元杜氏たちの声
初めての酒米での酒造りは、造り手にとっても手探り状態のようなもの。栃木県宇都宮市内で開かれた新酒発表会で、「夢ささら」に対する感想を蔵元や杜氏のみなさんにお話をうかがいました。
「朝日栄」相良酒造
「醪でお米が思ったよりも溶けたので、途中で追い水をして、軽快な感じに仕上げました。きれいだけれど、柔らかみのある味わいになりました。今後も吟醸酒に使いたいです」
「姿」飯沼銘醸
「硬い米といわれる五百万石よりも軟らかくて、けっこう旨味も出て、扱いやすい米だなぁという印象でした。うちの蔵では周辺の農家が育てたお米で造る本当の意味での地酒を目指しています。夢ささらも地元で作ってもらって、今後もどんどん使っていきたいです」
「仙禽」せんきん
「事前情報では夢ささらは五百万石以上、山田錦未満で、硬さは五百万石寄り、溶け具合は山田錦に近いということでしたが、だいだいその通りでした。蒸した米を麹室に引き込んで作業をした時の触り心地が、外が軟らかくて中が硬い印象です。お酒はまだ搾ったばかりで、半年ぐらい貯蔵したらどのような味になるのか楽しみです」
「若駒」若駒酒造
「初めて使って搾ってみた印象は、五百万石に近いすっきりとした酒質でした。今回は精米歩合の規定があって試せませんでしたが、来季は80%精米か90%精米でもっと味わいのしっかりとしたお酒に挑戦したいです」
「忠愛」富川酒造店
「麹作りの時の米の感触がプニプニとした不思議なものでしたが、非常によい麹ができました。浸漬もやりやすく、酵母も健全に活動してくれたので、素敵な香りを持つ美しい純米吟醸に仕上がりました。来年は本醸造酒にも挑戦したいです」
「松の寿」松井酒造店
「麹を見た感じでは、弾力性があって醪で溶けて味が出そうな雰囲気でした。ですが、搾ってみると、意外とすっきりとした仕上がりになりました。このお酒を冷蔵庫で一定期間貯蔵したら、味がさらに開くのか閉じるのかを見極めたうえで、来季はいろいろな造りを試みたいです」
新酒発表会では、27蔵の酒を全てテイスティングさせていただきました。新酒ということもあり、若々しくドライですっきりとしたお酒が多かったように思えます。酒質は、押しなべてクリアな印象。秋口まで貯蔵してひやおろしの時期に、あらためて飲みたいと思いました。
「夢ささら」が栃木を代表する酒米に育つ未来が楽しみですね。
(取材・文/空太郎)