2020年7月からレジ袋(プラスチック製買物袋)の有料化がスタートしました。これをきっかけに、身の回りにある容器や梱包資材について興味を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。

日本酒で使われる資材といえば、まず思い浮かぶのがガラス瓶やラベル類。ですが、実は日本酒にはもっと多くの資材が使われています。この記事では、日本酒に関わるさまざまな資材についてご紹介します。

サイズも形もさまざま、日本酒用のガラス瓶

瓶日本酒はガラス瓶に入れられて販売されていることが多く、そのサイズは一升瓶(1800ml)と四合瓶(720ml)が定番です。

他には、関西の酒造関係者が「3デシ」と呼ぶ300ml瓶や、主にカップ酒で使われる180ml瓶などもあります。このような小容量瓶はおみやげ用の日本酒としてちょうど良いサイズです。

さらに四合瓶より容量の多い900mlの瓶もあれば、鑑評会で使われる黄緑色の500ml瓶などいくつも種類があります。

瓶

一升瓶や四合瓶のほとんどは、複数のメーカーが同一の規格に沿って作っています。酒蔵で使われる洗瓶機や充填機の仕様もそれらに合わせられていて、規格が揃っているため、再利用しやすいというメリットがあります。

飲み終わった日本酒の瓶は、資源回収として引き取られたあと、回収業者や酒造メーカーが再利用可能な状態にします。キャップを取り、ラベルを剥がし、アルカリ洗剤と熱湯で洗浄すれば、再び日本酒を詰める準備が整います。洗瓶時と詰口作業前は、飲み口や底が欠けていないか、汚れがないかを必ずチェックします。

これらは新品の瓶に対して回収瓶と呼ばれています。よくみると小さなキズもありますが、強度的な問題はなく新しい瓶に比べてコストが安いのがメリットです。

ストレート瓶タイプとブタ瓶タ

「ストレート瓶」(写真左)と「ブタ瓶」

よく流通している四合瓶の形は、大きく2つにわけられます。ほっそりした「ストレート瓶」タイプと、横に広い「ブタ瓶」タイプです。

両者とも容量は720mlと同じですが、ストレート瓶のほうが少しだけ背が高いです。そのため、ブタ瓶の高さに合わせて段ボール箱を選ぶと箱が閉まらず、反対にストレート瓶の高さにあわせるとブタ瓶の上に隙間ができてしまい、輸送中にガタつきます。ラベルを貼る位置や打栓位置も違うので、どちらかの瓶に統一している酒蔵が多いです。

最近では、発泡性清酒や瓶内二次発酵清酒向けに耐圧加工された瓶や、コルクや耐圧キャップに対応した瓶など特殊な瓶を見かけることも増えました。

ラベルを貼らずに瓶に直接印字するプリント瓶もあります。茶瓶や緑瓶のほかに、黒瓶、青瓶、瑠璃瓶、ピンク瓶、透明瓶など、ガラスの色もさまざまです。曇ガラスのように加工されたのがフロスト瓶。これらはレギュラー商品ではなく、企画商品など流通量が少ない商品で使われることが多い瓶です。

ガラス以外の容器でいうと、ガラス瓶に比べて軽量という理由から紙パックやプラスチック製のものも多く出回っています。紙パックに入れられた日本酒は大手酒蔵の商品でよく見かけますね。プラスチックの容器は、日本酒の新しい飲み方の提案として、近年良く目立っているように感じます。

キャップやラベルも用途に合わせて進化

キャップ

日本酒のキャップは、ねじ込み式の「スクリューキャップ」か、プラスティックの中栓が付いた「密栓タイプ」のキャップが主流です。

一升瓶のキャップは「王冠」とも呼ばれたりしますが、全て金属製の王冠ではありません。防錆や酒質維持、着色防止の観点、火入れや冷蔵管理といった温度変化などの観点から、プラスチック製の中栓にシルバーの金属フィルムが付いたタイプのものが主流です。

キャップ

外側は金属製、内側はプラスチック製のため、地域にもよりますが捨てるときには分別が必要で、詰め替え作業などで大量のキャップの廃棄がある際は少し手間がかかります。

最近は、四合瓶でも、スクリューキャップではなく一升瓶のような密栓タイプを使用している商品をよく見かけます。発泡性の清酒では耐圧キャップやコルク栓も採用されています。

ラベル剥がし

続いて、ラベルです。

ラベルといっても形や用途はさまざまです。銘柄名やイラストと共に正面に貼ってあるのが「胴貼り」、裏側に原料や蔵元の想いが書いてあるのが「裏貼り」。瓶の肩に当たる位置に貼ってあるのが「肩貼り(たすき)」です。他にも封緘(ふうかん)や首かけ、シールなどが酒瓶を彩ります。

装飾する要素が多ければ多いほど、情報量が増えるので飲む人たちにとって役に立ちますが、ツールが多すぎると酒蔵の出荷担当部署は大忙しになります。

ラベルの多くは紙製で瓶に貼られたまま回収されます。これは洗瓶機ではがせるものが多いのが理由です。リサイクルする際の利便性を考慮して、大抵の日本酒ラベルは特殊コート紙をデンプンのりで貼り付けているので、お湯や水に浸けておくと簡単に剥がすことができます。

しかし、最近では要冷蔵の商品も増え、結露によるラベル剥がれが問題になったり、試飲販売などで氷水に瓶ごと入れて冷やしているとラベルが剥がれてしまったりします。そこで耐水性があり、洗瓶機では剥がれないタックシールやシールラベルと呼ばれるラベルも出てきています。剥がす時は、カッターナイフなどを使います。

日本全国へ安全に届けるための梱包資材

緩衝材

日本酒に関わる資材は瓶まわりだけではありません。瓶詰めが終わったら出荷の準備です。自蔵の店頭で販売する以外は、全国の酒販店や問屋へ発送する必要があります。ここでの注意点は、瓶割れやラベルの汚損を防ぐことです。

ラベルの擦れを防ぐためは、1本ずつポリ袋に入れたり、瓶に透明フィルムを巻いたりします。生酒のラベルに透明フィルムが巻かれているのをよく見るかも知れませんが、これは結露防止にも役立ちます。

瓶内の酒が冷たいときに温かく湿った空気に触れると瓶は結露します。しかし、フィルムが貼ってあれば結露は瓶ではなくフィルムにつくので、ラベルのずれやにじみを防ぐことができます。

日本酒は太陽光や蛍光灯などの光に弱く、酒の成分を変質させてしまうことは昔から知られていました。そこで昔から行われているのが瓶に新聞紙を巻く方法です。新聞紙は簡単に手に入ることもあり、とても実用的です。最近では、劣化を防ぐために、遮光フィルムもよく使われています。

P箱

瓶の保護が終わったら、続いて「P箱」と呼ばれるプラスチック搬送用箱や段ボール箱に詰めて出荷です。日本酒の瓶は割れやすく重いので、段ボール箱も厚手のものや防水性のあるものを使っている蔵もあります。

通常輸送の火入れ酒は、1箱6本入りの段ボール箱か、P箱に天パッド(やっこ)をつけて発送します。クール便で送る生酒は、運送の関係で1箱一升瓶5本入りで発送します。

緩衝材として、気泡緩衝材(プチプチやエアパッキンと呼ばれるもの)も使われます。カートン付きで販売されるお酒もありますが、これは贈答用に購入しやすいというほかに、緩衝材や光避けの役割を兼ねています。

パッキング

日本酒の品質を落とすことなく、全国各地へ安全に流通できるようになったのは、このようにガラス瓶やキャップ、包装用のビニール、段ボール箱、緩衝材など、さまざまな資材によるところが大きいでしょう。梱包資材と流通システムの発展に感謝して、今宵も日本酒を楽しみます。

(文/リンゴの魔術師)

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