「オール旭川で日本酒を造ろう」
そんな呼びかけに、多くの地酒愛好家が集まりました。

そうして始まった「農家の酒プロジェクト」は、北海道旭川産の酒造好適米を使い、旭川の酒蔵で純旭川産の日本酒を造ろうというもの。2012年から始まり、今年で6度目の開催です。

米作りから酒造りまでをリアルに体感できる

本プロジェクトは、一般市民の方々が田植えや稲刈りなどの農作業、酒造りの見学、ラベル貼りなどの製品化作業を通して、田んぼで育てられた米が酒となって市場に出るまでの流れをリアルに体感できるのが特徴。日本酒好きなら一度は体験してみたい、みずからが植えた米で造った酒が飲めるという魅力的な企画ですね。

また有料会員になると、上記の体験に加えて、完成した日本酒(純米吟醸酒の無濾過生原酒と火入れをそれぞれ一升ずつ)や、農場が生産した食用の新米が進呈されるうれしい特典も。昨年の秋に収穫した米を使った酒は、今年の春にお披露目されたばかり。"オール旭川"ということで、ラベルデザインも地元のデザイナーが担当しています。


「農家の酒 28BY」(株式会社高砂酒造/旭川市)
純米吟醸 無濾過生原酒(写真左)/純米吟醸 火入れ(右)

華やかな酸味と柔らかな旨みが広がる見事な出来栄えでした。会員に届けられるのと同時に、酒蔵の直売所をはじめ、市内各所での小売りもスタート。話題性と酒質の高さから、取り扱いを始めた居酒屋や料理店もあり、多くの市民や観光客の口に届いているようですね。

ただの思い出作りじゃない!本気の田植え体験

今年の田植えは5月21日。約70名の会員が集まりました。近年、田植えの機械化が進んでいますが、このプロジェクトではあえて手作業で行ないます。裸足になって、いざ、田んぼへ突入!

「素人が参加する農作業だから、思い出作り程度に自分のまわりだけ数本植えたらおしまいだろう」と思っていたらとんでもない。農作業をたっぷりと楽しんでもらうために、今年から水田の面積を拡大したとのこと。田植え体験の場となった圃場は、なんと3反(900坪)。食用米なら、27俵を収穫できる広さです。

慣れない作業で心身ともに疲れてきましたが、この小さな苗が米になり酒になると思うと、感慨深いものがありました。

今回植えたのは北海道産の酒造好適米「彗星(すいせい)」。キレのあるすっきりした味わいが期待できる品種だそう。泥の中で悪戦苦闘しつつも、参加者の間に生まれた連帯感がやる気を後押し。およそ2時間をかけて、無事予定の面積に苗を植え付けました。

身をもって酒造りを実感できる、体験型の「酒育」

田植えの後はご褒美のお昼ごはん。農場で採れた野菜がたっぷりの食事をみんなで楽しみました。参加者は口々に疲れたと言いながらも「無事に稲刈りができるといいね」「どんなお酒ができるかな」と、これからを楽しみにしている様子。その日手にした苗が、普段食べている食用米とは異なる酒造好適米だと知り、改めて感心している人もいました。

あとは、稲がすくすくと育つのを祈るのみ。

こちらは田植えから約1ヵ月後の風景。田んぼが全体的に青くなり、苗がしっかりと根を張って太く成長していますね。あぜ道に雑草が伸び放題なのは農薬を使っていないためです。

清酒の原料は水、米、米麹。愛好者ならだれでも知っていることでしょう。しかし、旨い酒が蔵人の卓越した技によって造られるものと理解していても、原料である米に対してはぼんやりとしたイメージしかないという方も多いかもしれません。米も長年に渡って積み重ねてきた技術を生かし、人の手によって大切に育てられるという点では酒と同じでしょう。

米の生産現場にわずかながらも直接携わることができるこのプロジェクトは、まさに体験型の「酒育」。参加して良かったと、改めて感じました。

今後、稲の育成に関しては主催者が管理しますが、育ち具合を会員が見学するのは自由とのこと。秋になると再び参加者が圃場に集合し、稲刈りを体験する予定です。

(取材・文/KOTA)
(撮影/高砂酒造株式会社・KOTA)

◎農家の酒プロジェクト2017概要

  • 主催:株式会社うけがわファームDEN-EN(北海道旭川市東旭川町)
  • 共催:高砂酒造株式会社
  • 米の作付面積:6,000坪
  • 酒の生産量:8,000リットル(1,800ml:3,200本, 720ml:3,600本)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます