"群馬県川場村から世界へ"、そういう想いで酒を造り、地元と共に成長していこうと活動を続けている永井酒造。代表銘柄である「水芭蕉」は全国的にも有名です。
特に、日本で初めて成功したシャンパン製法によるスパークリング日本酒の「MIZUBASHO PURE」は、大きな話題となりました。透明であること、シャンパンと同じガス圧にすることなどをクリアするために、何度も試作を重ね、割れた瓶はなんと約500本に達するのだとか。
そして今回、長い年月をかけて成功させたMIZUBASHOブランドのスパークリング日本酒に新しい仲間が加わりました。その発売記念としてペアリングディナーが、ホテル椿山荘東京で行われたのです。
「MIZUBASHO 雪ほたか Awa Sake」の誕生
永井社長は、「MIZUBASHO PURE」の完成を機に「NAGAI STYLE」を確立させました。「NAGAI STYLE」とは、ひとつの日本酒のブランドを、料理のコースに合わせてペアリングするスタイルを指しています。
兼ねてから、日本酒の低価格を打破したい、価格の引き上げをする先頭バッターとなりたいと考えていた永井社長。そして、ワインと同じように、食事に合わせトータルで味わって欲しいとも願っていました。そこで、スパークリング、純米大吟醸、熟成酒、デザート酒、この4種類の日本酒を組み合わせて「NAGAI STYLE」としたのです。
「NAGAI STYLE」は日本国内のみならず、世界にも認められ、ニューヨークやナパバレーのフレンチレストランにも採用されています。
2016年、永井酒造は、蔵を構える群馬県利根郡川場村の良さを広めていきたいという想いから、「MIZUBASHOU PURE」と同じ製法で作った商品で、新たなブランドを創ることを決意します。そのときに永井社長が目を付けたのが、川場村名産の米である「雪ほたか」です。
「雪ほたか」とは、川場村で作られているコシヒカリのこと。コシヒカリの中でも、厳しい条件下で厳選したものだけが「雪ほたか」と名付けられるのです。
1年間、試行錯誤しながら完成した「MIZUBASHO 雪ほたか Awa Sake」は、しっかりした炭酸感が特徴。まろやかですっきりした香りとフルーティな風味、米の旨みも感じるのは「雪ほたか」の特徴でしょう。
杜氏の後藤さんにお話をうかがうと、「雪ほたかは食用米ということもあって、製麹や醪造りの部分で、山田錦を原料とする『MIZUBASHOU PURE』とは全く違いました。また、最初は溶けなさそうな米だと思っていましたが、意外に溶けて、予想と違う経過をみせました」ということでした。
この味と炭酸の強さは狙っていたのかと問うと、「いいえ。今まで雪ほたかで大吟醸を造っていましたが、瓶内二次発酵は初めてですので、どういう風に仕上がるのか楽しみでした。面白く出来上がったな、と思っています」と語ってくれました。
発売記念のディナーは「NAGAI STYLE」で
ペアリングディナーは、まさしく「NAGAI STYLE」によるもの。通常の「NAGAI STYLE」に加え、今回は特別に「MIZUBASHO 雪ほたか Awa Sake」で乾杯をして、発売に先駆け完成の喜びを会場で分かち合いました。
調理を担当するのは和食調理長の遠藤正昭さん(写真中央)と洋食調理長の遠藤敏行さん(写真左)。今回提供される日本酒を中心に組み立ててメニューを考案したといいます。
スープとして出されたのは「蕪(かぶ)のすり流し」。これに合わせたのが「水芭蕉 純米大吟醸 翠」です。
コクのあるごま豆腐が乗っている濃厚なすり流し。これに対して翠は、すっきりした香りで軽快、キレの良さでリセットしてくれ、次に繋げる役割をしてくれました。
魚料理は「甘鯛の鱗焼と帆立のスモーク」。合わせるのは、「水芭蕉 純米大吟醸 雪ほたか」です。
和食でよく使われる甘鯛ですが、サクサクとした食感に鱗が焼かれています。お酒は、まろやかな口当たりふくよかさがあり、若干の苦みが魚の旨みを引き出していました。
次は巻物です。お米は雪ほたか。そしてお酒は「MIZUBASHO PURE」を合わせるという構成。
「MIZUBASHO PURE」は、後に残らない華やかな香り。きれいで細かい泡立ち。上品なピュアと素材を活かした巻物の組み合わせです。特に、添えられた醤油の寒天寄せが良い役割。ごはんが汚れず、食感も良く、巻物と調和するのです。
この余韻を残しながら口直しのシャーベット。
雪ほたかの麹を使用したというシャーベットは、甘みを抑えていてさっぱり。これに「MIZUBASHOU PURE」をかけるというアレンジは、シェフのおすすめ。炭酸と日本酒の甘みとアルコールが加わり、大人なグラニテとなりました。
メインの肉料理は、「上州地鶏スチームオーブングリル」。雪ほたかで育った鶏と群馬野菜を使った1品です。
しっかりした歯応え、適度な旨みを持つ鶏肉に、あっさり目のソースとローズマリー、滋味溢れる群馬野菜がメインにも負けない存在感で、様々な味わいと香りが調和した料理です。
そしてこれに合わせるのが「水芭蕉 純米大吟醸 ヴィンテージ 2006」。ドライフルーツのような甘み、スパイスを感じさせる風味、蜜蝋のようなコクがありつつ、軽快さがあってキレる仕上がり。香りといい、味といい、まさにマリアージュと言えるような組み合わせでした。
最後は、群馬県産のりんご「秋映」を使ったコンポート。永井社長から「りんごを使ったデザートはどうだろうか?」と直々に提案された料理だそうです。高野豆腐を滑らかにし、香り高いシナモンと抹茶の風味を付け足した、シェフ渾身の締めとなります。
最後のお酒はもちろん、デザート酒。「水芭蕉 Dessert Sake 」が提供されました。貴醸酒と同じ造りをしていて、仕込み水の代わりに純米吟醸を使っているという贅沢さ。すっきりした香り、青りんごのようなフルーティーさ、ふくよかさとコク、アルコールのボリューム感があり、満足度の高いお酒です。
和食と洋食が交互に出てくるという珍しい料理構成。「食事に合わせてトータルでお酒を味わう」という「NAGAI STYLE」の提案を素晴らしく表現したペアリングディナーでした。
川場村を代表する一本に
川場村の外山村長にお話をうかがうと、「川場村は、同じことを長く続けられる場所です。特に農業に関しては、いつまでも続けられるよう地域一体となって環境を整え、その努力が実って良い作物もできています」ということでした。
だからこそ「雪ほたか」は、「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で金賞を10回も受賞しているのでしょう。これだけ受賞しているのは前代未聞、生産者の情熱と努力の賜物です。外山村長は「この雪ほたかでスパークリングを造ってくれたので、2020年に向けて、乾杯酒となるようアピールしていきたい」と仰っていました。
村長を始め、永井酒造、そして地元の方々が同じ想いで携わって出来た「MIZUBASHO 雪ほたか Awa Sake」は、10月18日に発売。「NAGAI STYLE」と共に川場村から世界へ羽ばたく日も近いかもしれません。
(文/まゆみ)