10月1日は日本眼鏡関連団体協議会が制定した「メガネの日」。それに合わせて、9月下旬から「萩の鶴 メガネ専用 特別純米酒」が発売されます。
造っているのは、宮城県栗原市の萩野酒造。杜氏を筆頭に蔵人全員がメガネをかけていることから、「メガネの人だけで醸したお酒を、メガネの人だけに呑んでほしい」というメッセージを込めて、3年前から売り出してきました。
コンセプトに合わせたポップなラベルデザインのおかげもあってか、毎年あっという間に完売になってしまいます。そんな「メガネ専用」の誕生秘話を追いました。
10月1日はメガネの日?ネクタイの日?
「メガネ専用」を生み出したのは、これから8代目蔵元になる予定の佐藤曜平専務。東京農業大学を卒業した後、2002年に蔵へ戻りました。以後、商品戦略を一新させるとともに、酒質の向上に努めています。
平成18BY(醸造年度)からは外部の杜氏に頼らず、みずからが指揮を執って酒造りをするようになりました。「萩の鶴」と「日輪田」のダブルブランドで、少しずつ順調に売上を伸ばしています。
ところが今から3年前、平成26BY(醸造年度)の醸造シーズンのおわりに酒米が余ってしまうという事態が起こりました。このような場合、残った米でお酒を造り、他のお酒にブレンドして販売するのが一般的と言われています。しかし、佐藤さんは残った米で造ったお酒をブレンドせずに貯蔵していたのです。そして「このお酒を、そのまま売ることはできないだろうか」と考えます。
そのときはちょうど夏場だったので、「日本酒の日」である10月1日に出荷しようと考えながら、10月1日がどんな日なのかを調べました。そこで目についたのが、「メガネの日」と「ネクタイの日」でした。
佐藤さんは"メガネをしている人向け"、もしくは"ネクタイをしている人向け"のお酒として販売したらおもしろいのではないかとひらめきました。ただ、ネクタイの方では、対象がほぼ男性に限定されてしまいます。
「メガネの方にすれば男女どちらにも飲んでもらえる。なによりも、自分を含めて、うちの蔵で酒造りに従事しているメンバーの全員がメガネをかけているので、"メガネをかけた蔵人が醸した純米酒を、メガネをかけた人だけが飲んでね"、というコンセプトにすればウケるのではないか」と思い至ったそう。
特約店の反応はさまざまでした。「おっかなびっくりのお店が多かったですね」と、佐藤さんは当時を振り返ります。
しかし、買い手の反応は好評で、得意先である酒販店のツイッター投稿が8,000回以上リツイートされるなど、あっという間に完売になってしまいました。翌年も販売することが決まった時点で、佐藤さんは「ジャケットだけが斬新で肝心の中身がいまいち、というのは良くない。酒質にも良い個性を出す」と決意。2年目からは本格期な商品製造に臨んだのです。
本気でやるからにはラベルもこだわろうと、かわいらしいメガネのイラストに加えて、「メガネ専用 全員メガネの蔵人で造りました」という文言を大きく書きました。さらに、視力検査で用いられるランドルト環を肩貼りにするという凝りようです。
特徴の異なる3種類のお酒をブレンド
2年目の「メガネ専用」の仕込みは、萩野酒造の代表銘柄である「萩の鶴」でも「日輪田」でもない個性として、香りが明確なお酒、旨味のはっきりとしたお酒、酸味が突出したお酒の3種類をブレンドするという大胆な挑戦に取り組みました。
「3つの個性を1本の仕込みで実現するのは難しいので、ブレンドをすることにしたんです」と佐藤さん。
酵母を含めていろいろな手法を織り交ぜながら、3本の仕込みを同時並行で醸し、搾りのタイミングを合わせていくのには相当な苦労があったのだそう。
それでもイメージ通りの個性的なお酒を造ることができました。前年の3倍にあたる量を造ったそうですが、すべて完売。また、その年から付けることにしたノベルティ「メガネ専用メガネふき」も好評でした。
3年目となる今年のお酒は、基本的な造りこそ昨年と同じですが、これまでのような、澱を入れたうすにごりではありません。
「お客さんから、最初の年に造ったおりがらみが曇ったメガネみたいでおもしろいねと言われたので、2年目も澱を入れたお酒にしたんです。しかし、製品が安定しないので、今年はやめました。外見は遊んでいるように見えても、中身は本気であることを強くアピールしていきます」
年に一度の出荷ということで、「メガネ専用」を待ち遠しく思っている呑み手も多く、今回もきっとすぐに完売してしまうでしょう。
佐藤さんは「旨味のきれいな『萩の鶴』や、山廃の酸味がメリハリをつけている『日輪田』を愛飲してくださっている方々も、年に一度は、このお酒に浮気をして楽しんでほしいですね」と、今後も「メガネ専用」を造り続ける構えでいるようです。
(取材・文/空太郎)