楯の川酒造(山形県酒田市)が、99%磨いたお米を使って醸した純米大吟醸酒「光明」を10月1日(日)から売り出します。

今年7月に精米歩合7%の純米大吟醸酒「七星旗」を発売したことで、大きな注目を浴びた楯の川酒造ですが、そのなかでさらに、精米歩合1%のお酒を造ったいきさつと狙いを伺いました。

精米に2か月半。「極限」を超えた日本酒

平成22BYから、造るお酒をすべて精米歩合50%以下の純米大吟醸に限定した楯の川酒造は、その同じ年に山田錦を8%まで精米した「純米大吟醸 極限」を造りました(発売は翌年)。「極限」は数ある日本酒の中でも高価な、4合瓶2万円という価格で売り出され、その後、蔵のフラッグシップ商品になっています。

しかし佐藤淳平社長は、「ワインの世界では1本10万円以上するものがいくらでもある。片や日本酒は、頑張っても数万円。これでは寂しい。もっと高額なものがあってもいいのではないか」と考えるようになります。

そして2015年、7%精米の純米大吟醸酒「七星旗」の製造に向けて動き出します。しかしそんな折、酒田市内の酒販店主から「少しずつ精米歩合を減らすよりも、いっそこと、1%精米の酒を造ったらどうか」と提案されたのです。「七星旗」のプロジェクトは続けながらも、「それもそうだな」と佐藤社長はすぐにその気になりました。


7%精米の「七星旗」と1%精米の「光明」

ただし、1%精米のお酒を造るのは口で言うほど簡単ではありません。

最初のハードルはお米の調達です。一般に小仕込みと言われる総米600キロ仕込みの50%精米の純米大吟醸を造るには1.2トンの玄米が必要。同じ仕込み規模で1%精米のお酒を造るには50倍の60トンもの玄米が必要になります。

希少な山田錦ではさすがに調達は難しいと感じて、高精白に耐えうる酒造好適米の出羽燦々を選び、お米の確保に奔走。そして2015年末に、調達の見込みが立ったのです。


玄米(右)と精米歩合1%のお米(左)

次の課題は精米です。玄米を1%まで磨くには、蔵にある2台の精米機を2か月半もフル稼働させなければならないそう。また、他のお酒を造っている時に、この作業をするわけにもいきません。そこで平成27BYの造りがすべて終わったあとに、精米作業をすることにしました。

精米は、まず玄米を20%まで磨いたところで取り出して状態を確認しました。それを再投入して4%まで磨いてから取り出し、最後にもう一度投入して1%まで磨きました。1%精米の米は真球状の純白な粒で、小さくてもしっかりと硬くて存在感たっぷりでした。

精米を担当した川名啓介さんは、「想定しないようなトラブルが起きないか、ひやひやでした。経験済みの7%精米の先については、精米機のメーカーさんと緊密に連絡を取り合いながら、慎重に進めました」と話しています。


精米機の前で、川名啓介さん(左)と佐藤社長(右)

ちなみに、楯の川酒造は精米によってできた米糠を、お米の外側のタンパク質の多い「赤」から、タンパク質が減り純粋なでんぷん質に近づくにつれて「中」「白」「上白」の4種類に分けて貯め、飼料から煎餅の原料まで幅広い用途のために出荷して、すべてを有効活用しているそうです。

さて、精米が終われば造りです。

佐藤社長がとくに心配したのは洗米と吸水でした。洗米時の不安は、お米を洗うステンレスのざるの網の目を米粒がすり抜けてしまうことでしたが、結果的には網から抜け落ちることはなかったそうです。

また扱うお米の量が少ないので、吸水も一発勝負でハラハラしたそうです。ただし、洗米から麹造りまでの工程で50%精米の米だと割れることがありますが、1%精米の米は「小さすぎて、指の圧力などで割れることはありませんでした。むしろ蒸した後の米はべたつきがまったくなくてサバケの良い仕上がりでした。この段階で、麹造りはうまくいくなと確信し、破精込みの優れた麹米になりました」と佐藤武志製造課長は話しています。

付加価値の高い日本酒市場の創造へ


サーマルタンクの前で、佐藤課長(左)と佐藤社長(右)

楯の川酒造は前年(27BY)に7%精米の純米大吟醸「七星旗」を先行して造っていました。その際は7%精米にひっかけて、協会7号酵母を採用しましたが、お米が溶けない(糖化が進まない)一方で、7号酵母の発酵が旺盛だたっため、できあがった酒は狙っていたよりも味わいに厚みがなかったのだそう。そこで、28BYは「七星旗」も「光明」も手慣れた山形KA酵母と協会1801号のブレンドにしました。

「前年の教訓があったので、水も気持ち多めに吸わせ、軟らかく処理したので、狙い通りの仕上がりになりました。特に『光明』は7%以上にアミノ酸が少なく、甘さの品がさらによくなり、香りとのバランスも完璧でした」と、佐藤社長は太鼓判を押します。

試飲させていただくと、冬の快晴の青空のように、一点の曇りもない澄み切った甘味が可憐な香りとともに、美しいハーモニーを奏でる美酒。香りが強すぎないので、いくらでも飲み続けられるタイプのお酒でした。

銘柄名は「ワインに比肩する付加価値の高い日本酒の市場を創るという望みに、一筋の光が差し込むきっかけになれば」という思いから「光明」としました。

さらに、価格でも"次のステージを創る"ことを意識しています。これまで、他社の高額商品は4合瓶で数万円程度でしたが、「光明」は10万円(税込み10万8000円)としました。1本ずつ高級な桐箱に納められて販売されます。

出荷するのは全部で150本。「楯野川」の特約店20店余りで10月1日(日)から発売されます。搾ったお酒はまだ蔵の冷蔵庫に残っていますが、それは海外で販売する計画でいるそうです。

お米の調達にも精米にも時間がかかるため、今度の平成29BYでは1%精米の純米大吟醸酒は造りません。では、その次の30BYでは?と聞くと、佐藤社長は「やるとしたら別の米でやりたいですね。山田錦に挑戦してみたい気持ちもありますが、お米の価格が高いので、小売価格は20万円になってしまうかもしれません」とさらりと言ってのけていました。

楯の川酒造の動きには今後も目が離せません。

(取材・文/空太郎)

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