楯の川酒造(山形県酒田市)が、99%磨いた米を使って醸した純米大吟醸酒「光明」を、2018年10月から売り出しました。

2017年7月に精米歩合7%の純米大吟醸酒「七星旗」を発売したことで、大きな注目を浴びた楯の川酒造。そんななかで、さらに精米歩合1%のお酒を造るに至った経緯と狙いを伺いました。

精米に2ヶ月半。極限を超えた日本酒

平成22BY(醸造年度)から、造るお酒をすべて精米歩合50%以下の純米大吟醸酒に限定した楯の川酒造。同年に山田錦を8%まで精米した「純米大吟醸 極限」を造りました(発売は翌年)。「極限」は数ある日本酒のなかでも高価な、四合瓶2万円という価格で売り出され、その後、蔵のフラッグシップ商品になっています。

しかし、佐藤淳平社長は「ワインの世界では、1本10万円以上するものがいくらでもある。かたや日本酒は、がんばっても数万円。これでは寂しい。もっと高額なものがあってもいいのではないか」と考えるようになります。

そして2015年、7%精米の純米大吟醸酒「七星旗」の製造に向けて動き出します。しかしそんな折、酒田市内の酒販店から「少しずつ精米歩合を減らすよりも、いっそのこと、1%精米のお酒を造ったらどうか」と提案されたのです。「七星旗」のプロジェクトを続けながら、「それもそうだな」と佐藤社長はすぐにその気になりました。

7%精米の「七星旗」と、1%精米の「光明」

しかし、1%精米のお酒を造るのは、口で言うほど簡単ではありません。

最初のハードルは米の調達。一般に小仕込みと言われる、総米600キロ仕込みで50%精米の純米大吟醸酒を造るには、1.2トンの玄米が必要です。同じ仕込み規模で1%精米のお酒を造るには、50倍の60トンもの玄米が必要になります。

希少な山田錦を調達するのはさすがに難しいと感じて、高精白に耐えうる酒造好適米・出羽燦々を選び、米の確保に奔走。そして2015年末に、調達の見込みが立ったのです。

玄米(右)と精米歩合1%の米(左)

次の課題は精米です。玄米を1%まで磨くには、蔵にある2台の精米機を2ヶ月半もフル稼働させなければならないのだそう。他のお酒を造っているときに、この作業をするわけにはいかないので、平成27BY(醸造年度)の造りがすべて終わったあとに、精米作業をすることにしました。

精米は、まず玄米を20%まで磨いたところで取り出して、状態を確認しました。それをさらに4%まで磨いてから取り出し、最後にもう一度確認して、1%まで磨きました。1%精米の米は真球状の純白な粒で、小さくてもしっかりと硬く、存在感たっぷりでした。

精米を担当した川名啓介さんは「想定外のトラブルが起きないか、ひやひやでした。経験済みの7%精米から先については、精米機のメーカーさんと緊密に連絡を取り合いながら、慎重に進めました」と話しています。

川名啓介さん(左)と佐藤社長(右)。精米機の前で。

ちなみに楯の川酒造は、精米によってできた米糠を、タンパク質が多い米の外側「赤」から、純粋なでんぷん質に近づくにつれて「中」「白」「上白」の4種類に分けて貯蔵し、飼料から煎餅の原料まで、幅広い用途のために出荷しています。原料のすべてを有効活用しているんですね。

さて、精米が終われば造りです。

佐藤社長が特に心配したのは洗米と吸水でした。洗米時の不安は、米を洗うザルの網目を米粒がすり抜けてしまうこと。結果的に、網から抜け落ちることはなかったそうです。

また扱う米の量が少ないので、吸水は一発勝負。とてもハラハラしたそうです。しかし、50%精米の米では、洗米から麹造りまでの工程で割れてしまうことがあるそうですが、1%精米の米は「小さすぎて、指の圧力などで割れることはありませんでした。むしろ、蒸した後のべたつきがまったくなく、サバケの良い仕上がりでした。この段階で、麹造りは上手くいくと確信し、実際に破精込みの優れた麹米になりました」と、佐藤武志製造課長は話しています。

付加価値の高い日本酒市場の創造へ

佐藤課長(左)と佐藤社長(右)。サーマルタンクの前で。

楯の川酒造は前年(27BY)に7%精米の純米大吟醸酒「七星旗」を先行して造っていました。その際は7%精米にひっかけて、協会7号酵母を採用しましたが、米が溶けず糖化が進まない一方で、7号酵母の発酵が旺盛だったため、できあがったお酒は狙っていたよりも味わいに厚みがなかったのだそう。そこで、28BYは「七星旗」も「光明」も、使い慣れた山形KA酵母と協会1801号のブレンドにしました。

「前年の教訓があったので、水も少し多めに吸わせ、やわらかくなるように処理したので、狙い通りの仕上がりになりました。特に『光明』は『七星旗』以上にアミノ酸が少なく、甘さの品がさらに良くなり、香りとのバランスも完璧でした」と、佐藤社長は太鼓判を押します。

試飲させていただくと、冬の快晴の青空のような一点の曇りもない澄み切った甘味が、可憐な香りとともに、美しいハーモニーを奏でる美酒でした。香りが強すぎないので、いくらでも飲み続けられるタイプのお酒です。

銘柄名は「ワインに比肩する付加価値の高い日本酒の市場を創るという望みに、一筋の光が差し込むきっかけになれば」という思いから「光明」としました。

さらに、価格についても"次のステージを創る"ことを意識しています。これまで、他社の高額商品は四合瓶で数万円程度でしたが、「光明」は10万円(税込みで10万8000円)としました。1本ずつ高級な桐箱に納められて販売されます。

出荷するのは全部で150本。「楯野川」の特約店20店あまりで、2017年10月に発売されました。海外で販売する計画もあるそうです。

米の調達にも精米にも時間がかかるため、今度の平成29BYでは1%精米の純米大吟醸酒は造りません。「その次の30BYでは?」と聞くと、佐藤社長は「やるとしたら別の米でやりたいですね。山田錦に挑戦してみたい気持ちもありますが、米の価格が高いので、小売価格は20万円になってしまうかもしれません」と、さらりと言ってのけていました。

楯の川酒造の動きには今後も目が離せません。

(取材・文/空太郎)

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