鉄道と北関東の豊穣の地にある老舗蔵

蔵のある栃木県真岡市の名物といえば、なんと言っても真岡鉄道ではないでしょうか。開業は明治45年(1912年)。現在は土曜・日曜・祝日にSL蒸気機関車が通年で運行して、鉄道ファンの人気を集めています。

そんな鉄道の町である真岡市は鬼怒川水系の水にも恵まれ、北関東の穀倉地帯でもあります。辻善兵衛商店の創業は、なんと宝暦4年(1754年)。近江商人だった初代・辻善兵衛に始まり現在は16代目、260年あまりの歴史を誇る老舗蔵です。鬼怒川水系の伏流水を地下50mからくみ上げて仕込み水として使用。代表銘柄は「桜川」と「辻善兵衛」です。

下野杜氏の16代目が銘酒を醸す

現在の杜氏は蔵元16代目の辻寛之氏。茨城県の蔵元「武勇」で2年間修行を積み、蔵に戻ったのは平成10年(1998年)。当時、蔵を任されていた南部杜氏が体調を崩し、翌年からは酒造責任者となりました。平成12年(2000年)、まだ23歳だった同氏が中心となって醸した大吟醸酒が関東甲信越国税局酒類鑑評会で金賞を受賞するなど、実績は折り紙つきです。同氏は、平成19年(2007年)に下野杜氏(しもつけとうじ)に認定されました。

伝統的な技法で日本酒を醸す蔵のリーダー的役割のことを「杜氏」と呼びますが、伝統的な職人技術がゆえに、杜氏の高齢化による後継者不足が業界内で危惧されています。そこで栃木県産業技術センターでは、栃木県の地酒の品質向上に務め、酒造りに関する実技やカリキュラム・試験に合格した人たちを「下野杜氏」として、2006年(平成18年)から公認しています。寛之氏はその第2号となっています。このような活動の成果か、栃木県は今や関東地方有数の銘醸地になっています。

雄町米の力強さと栃木酒の上品さが融合

近年、全国新酒鑑評会の金賞受賞の常連にもなり、「SAKE COMPETITION2017」でも「桜川 大吟醸」が金賞を受賞しています。同蔵のお酒は、軟水の仕込み水を生かし、香り高いきれいな味わいが特徴です。

この純米吟醸酒は、酒造好適米「雄町」を56%まで磨いている生酒です。イチゴやライチのような芳醇で瑞々しい香りが印象的。口に含むと、直汲みらしいピチピチしたガス感を感じます。その後は雄町らしい、ポッチャリとした旨みを感じながらも、適度な酸が味を引き締め、滑らかかつスッキリした印象です。非常にバランスが取れた味わいで、後口は長い余韻を残しスーと消えていきます。

開けたてはフレッシュでしたが、2、3日置いて呑み直すと、雄町の旨みがより強調されていました。キンキンに冷やして呑むのが向いていますが、実はロックもお勧め。味はダレずにきれいな酸が引き立ち、初心者の方にも飲みやすいです。

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