「わかりやすい!すぐに話せる!用語解説」シリーズの第2弾は、生酛造りについてです。 生酛という言葉は、日本酒が好きな方なら知らない方はいないでしょう。でも、「わかりやすく説明してください」と言われればどうでしょうか?

日本酒の造り方はとっても複雑で、専門的な言葉もたくさん出てきます。
酵母?酒母?さらには硝酸還元菌なんて生物学的な用語まで・・・

普段使わない言葉ばかりが並ぶと頭にも入りにくいですし、がんばらないと理解はできません。だからこそ、このシリーズでは、敢えて「定義」にはフォーカスせず、知識がない人でも「なるほど!だったら一回飲んでみたいな!」とイメージできる説明を心がけます。

「キモトヅクリ」とは何ぞや?

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飲食店でも、酒屋さんでも、「生酛って何ですか?」という質問は多いです。

本来「生酛」の説明を見ると、

「生酛系酒母という自然の乳酸菌の力で雑菌を排除して、酵母が活動しやすい状態をつくり、アルコール発酵を促進する。また、山卸しという米をすり潰す作業を行う伝統的な醸造方法」

という説明になるのですが・・・正直、スッと入ってきますか?イメージできました?特に日本酒が最近好きになった方、この説明でわかるでしょうか?おそらくチンプンカンプンでしょう。

「生酛造り」とは何か、わかりやすく言うと、「自然の力を活用した、昔ながらの日本酒の造り方」です。昔ながらの造り方というのは、明治時代中盤まで主流だった日本酒の造り方を意味します。日本酒が一般人にも広がった400年も前の、江戸時代に主流だった方法です。

当時は微生物なんて言葉もありません。顕微鏡もありません。でもそんな中、杜氏の五感によって、微生物のはたらきをうまく活用し、お酒を造っていたんです。

400年経った今でも日本酒が飲まれ、その当時の製法で生まれたお酒がこうして飲まれている。これはすごいことです。それだけ日本人は日本酒が好きなんですよね。

「生酛」か「速醸」か

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さて、もうひとつ。「自然の力を活用した」という部分について説明していきます。

日本酒の造り方を大きく分けると、「麹づくり」「酛づくり」「づくり」と3つに分けることができます。「生酛」ということばは、この「酛づくり」に関わる言葉です。酛=酒母ともいいますが、意味はそのまま「お酒を生み、育てる母」です。

赤ちゃんは、おなかの中でたくさんの栄養をもらって育っていきます。それと同じく、酒母というのはまさしく日本酒を育てる母。そんな大事な「日本酒の母」の造り方は、大きく分けると「速醸」と「生酛」の2種類あります。

さきほども説明した通り、「生酛」は明治時代中盤まで主流だったお酒の造り方。代わって「速醸」というのは、1910年(明治43年)に新しくできた今の主流の造り方です。

乳酸菌をイチから育てて乳酸を得るか、人工の乳酸を添加するか

実は乳酸というキーワードで、酒の母の性格は大きくかわります。自然の中で乳酸を得たいと思えば、乳酸菌を育てねばなりません。

しかし自然にはたくさんの微生物がいて、常にサバイバルが行われています。そのサバイバルを通して強い乳酸菌をうまく取り込み、育てるのが「生酛」。そうすると、乳酸菌を含めたくさんの微生物が織りなす、いのちの営みがそのまま日本酒の味になるのです。

逆にもともと敵がいない場所でつくられた「人工乳酸」を最初に添加するのが速醸。こちらは初めから乳酸が存在している状態なので微生物のサバイバルは行われず、結果シンプルな風合いの日本酒になります。

どっちがいいとかではなくて、まったくキャラクターが違いますよね。ですので、それぞれの母のキャラクターによって、生まれてくる日本酒のキャラクターも変わるんです。

生酛の味わいは?

では、今までの話を踏まえて、生酛の味を想像しましょう。野生を生き抜いてきたパワーのある酒の母が育てた子ども(日本酒)は、「複雑、野性味、自然の力」が存分に感じられます。

それがコクを生み、味わいが濃醇になると言われている理由です。だからこそ、燗酒にすることでさらに膨らみ、おいしくなるとも言われていますね。ぜひ深い味わいの向う側に、微生物のサバイバルと力強さを想像してみてください。

逆に、速醸はどうでしょうか?

端正でスマートな酒の母が育てた日本酒は、生酛系に比べて、淡麗でスッキリした味になります。

乳酸菌や微生物がつくりだす複雑味はないですが、クリアな酒質は生酛には存在しません。これもまた、日本酒の個性なのです。

生酛のお酒まとめ

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まとめるとこうなります。

1.「生酛造り」とは、江戸時代に主流だった伝統的な日本酒の造り方
2. 自然のサバイバルとともに乳酸菌を一から育てるプロセスを踏む
3. 野生を生き抜く微生物の営みから出来るたくましい酒質を持ち、パワフルで濃厚
4. 山卸しという米をすり潰す作業を行う(次回記事で説明)

以上4つが生酛の特徴をまとめたものです。

見慣れない「生酛」という言葉が、頭の中でイメージとして映像化できれば日本酒はもっと楽しくなるはずです。

またガッツリ肉を食べたい時や、濃厚な味の料理やクリーミーな乳製品に合わせたい場合も相性はいいので、ぜひ試してくださいね。
今回は「生酛造り」についてお話しました。

しかし、生酛を名乗るために必要な作業工程の4番目「山卸(やまおろし)」という作業工程のお話をここではしていません。

こちらは、次回記事「山廃仕込みとは?」で「山廃」「生酛」の違いとしてご説明いたします。

(文/sake_shin)

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