日本酒造りが始まる冬になると、酒販店やスーパーマーケットで「酒粕(さけかす)」が販売されるのをみかけますね。
酒粕とは、醪(もろみ)から日本酒を搾ることによって生まれる副産物のことを指します。とはいえ、酒粕には日本酒を造る過程で生まれた栄養素を豊富に含んでいるため、昔から様々な料理で活用されるなど重宝されてきました。
この記事では、酒粕が生まれる過程から、その活用方法まで紹介します。
醪を搾ったときに生まれる副産物「酒粕」
酒税法では、清酒は「アルコール度数22度未満で、米・米麹・水を原料とし、発酵させて濾したもの」と定義されています。そのため、酒造りには、ドロドロに発酵した醪(もろみ)から、酒(液体)と粕(個体)を分ける作業が発生します。
この「搾り」を行うことで、はじめて日本酒ができあがります。
搾りの工程は「上槽(じょうそう)」とも呼ばれ、主に3つの方法があります。
1つ目は、自動圧搾機を使って搾る方法です。この方法は「ヤブタ式」とも呼ばれ、多くの蔵で採用されています。
アコーディオンの状になって圧搾機の中に醪を入れて、両側から圧力を加えて酒を搾ります。圧搾機の中は布を重ねた板が連なっていて、圧力を加えると、この板に酒粕が残ります。搾りが終わると、圧搾機に残った粕を剥がします。
ヤブタ式で搾った酒粕は、その形状から「板粕」と呼ばれています。
2つ目は、「槽搾り(ふなしぼり)」という搾り方です。
酒袋と呼ばれる布袋に醪を入れ、「槽(ふね)」と呼ばれる細長い道具の中にに酒袋を何層にも重ねて並べます。最初は醪の自重で液体が流れ出し、最後は重石やテコの原理を利用して、上から圧力をかけて搾り出します。
ヤブタ式と比べると時間がかかりますが、自然の重さでしぼるため雑味のない日本酒を搾ることができ、吟醸造りでよく採用されています。
3つ目は、「袋吊り」という搾り方です。
醪を入れた酒袋を吊るし、自重によって酒が滴り落ちるのを待ちます。外部から圧力をかけずに搾るので、一番手間のかかる搾り方といわれています。
酒粕は醪から液体を取り除いたという点では共通ですが、目指す酒質によって酒粕の割合が変動します。
原料の白米に対する搾り終えた後の酒粕の割合が「粕歩合」で、通常は25~30%程度です。ですが、吟醸造りでは低温で米を溶かさないように発酵させるため、粕歩合が30~40%を超えるものがあります。ストレスをかけずに搾る大吟醸になると粕歩合50%~60%のものもあります。
味わいも異なり、ヤブタ式で搾った普通酒や純米酒の酒粕は、強い圧力をかけるためか固く、酒の成分は少なめです。一方、槽搾りや袋吊りで搾った吟醸酒や大吟醸の酒粕は、軟らかくクリーミー。酒の成分も多めです。
「酒粕」は栄養豊富で優秀な食品
酒粕は、米、麹、酵母由来の栄養成分(食物繊維やたんぱく質、ビタミンなど)が多く含まれている優秀な食品です。アミノ酸が豊富なので、料理に使うとうまみやコクを増やしてくれます。
そのため昔から、奈良漬や粕漬けなどの漬物類、粕汁、甘酒などといった料理で活用されてきました。最近では、洋食やお菓子、アイス、ラーメンなど、新しい活用事例も増えています。
その他にも、酒粕を原料に使った粕取り焼酎や、酒粕に多く含まれる美容成分を使った化粧品なども発売されています。
酒粕が販売されるのは、主に酒造りが行われている冬から春(12月~翌3月)にかけて。スーパーや酒販店などで酒粕を見かけたら、粕汁や甘酒を自宅でつくってみてください。酒粕を長期保存をする場合は、冷凍がおすすめです。
(文:SAKETIMES)