「酒造りの神様」として知られる農口杜氏が率いる農口尚彦研究所や、業界トップクラスの売上を誇る白鶴酒造がプロジェクトを立ち上げるなど、近年の日本酒市場で注目されている「クラウドファンディング」。
数あるクラウドファンディングサイトのなかでも、特に日本酒に注力しているのが「Makuake」です。プロジェクトのプラットホームとしてのみならず、蔵元を交えたイベントを開催するなど、日本酒業界を盛り上げる存在となっています。
そんなMakuakeでは、プロジェクトに関わった酒蔵数が3月に100件を超えました。なぜ、そこまで日本酒に力を入れるのか。その背景や日本酒への思いをMakuake創業者兼取締役・坊垣佳奈さんに伺いました。
「Made in Japan」の代表である日本酒を、世界に広めたい
─ 他のクラウドファンディングサイトと比較して、Makuakeはどのような違いがあるのでしょうか。
坊垣さん:現在、国内には多くのクラウドファンディングサイトが存在しますが、そのきっかけは2011年に起きた東日本大震災でした。被災地復興事業の資金調達という形でいくつものプロジェクトが立ち上がり、活動支援としてのクラウドファンディングが広がっていきました。
しかし、世界的に見ると、起業支援やプロダクトの新規開発に利用されることが多いんです。そこで、モノづくりに強い日本でもクラウドファンディングを活かせると考え、Makuakeが誕生しました。活動支援だけでなく、ビジネスを展開する最初のきっかけとして利用していただき、消費者が求めるものを流通させる。この考え方は、他のクラウドファンディングサイトとは大きく異なる点だと思いますね。
─ なぜ、日本酒のプロジェクトに注力しているのでしょうか。
坊垣さん:根底にあるのは「Made in Japan」を世界に知ってほしいという思いです。数ある「Made in Japan」の中でも、特に日本酒はクラウドファンディングとの相性が良いと感じています。それは「流通コスト」と「消費者とのコミュニケーション」の側面からです。
酒屋を経由する既存の流通においては、試飲をしてから購入できるなどのクラウドファンディングにはないメリットも多くありますが、クラウドファンディングでは直接お客さんに商品を届けられるため、流通コストを抑えることができます。
また、Makuakeでは「活動レポート」や「応援コメント」などのページで消費者とコミュニケーションを取ることができます。ここで得た生の声は、新たな商品開発の参考など、次のステップに活きることも。クラウドファンディングは、造り手の思いを伝えることにも適しているのではないでしょうか。
このような理由から、クラウドファンディングによって日本酒の流通に新しい形を提案できると思い、力を入れ始めました。Makuakeのプロジェクトに関わった酒蔵数は100件を超えましたが、長い歴史のある業界ゆえに理解を得ることは簡単ではないと思っていたので、想像以上のスピードで伸びていることは素直にうれしいですね。
「サポート役として、足りないピースを埋めていく」
─ 日本酒のクラウドファンディングはどのように広がっていったのでしょうか。
坊垣さん:日本酒プロジェクトの実績が地道に積み重なって、さまざまな酒蔵からご相談いただくようになり、次第に広がっていったという印象ですね。これまでの日本酒プロジェクトで最も支援された農口尚彦研究所のプロジェクトも、問い合わせがきっかけでスタートしました。
─ Makuakeはどの段階からプロジェクトに関わっているのでしょうか。
坊垣さん:製品の開発から流通までには「アイデア」「企画」「試作」「生産」「流通」という過程があります。問い合わせが多いのは「アイデア」「企画」の段階ですが、Makuakeがいま関わっているのは「生産」「流通」が多いですね。ただ将来的には、プロジェクトの「アイデア」や「企画」から関わっていきたいと考えています。
石井酒造とシャープがコラボして生まれた日本酒「冬単衣」のプロジェクトは企画の段階から入りました。このような事例を今後も増やしていきたいですね。
─ これからの日本酒業界に期待することを教えてください。
坊垣さん:若い人がもっと日本酒業界に関わってくれるようになるとうれしいですね。日本酒の価値を高め、日本酒に関わることが「かっこいい!」と映るようになってほしいと思います。
海外での人気も高まっているので、大きな可能性のある産業だと考えています。可能性を探るのは大変であるのと同時に、おもしろさもあります。Makuakeの役割は、サポート役として足りないピースを埋めていくこと。クラウドファンディングを通して人々がつながり、業界が発展する一助になればうれしいです。次世代の日本酒を、いっしょに造っていきたいですね。
日本酒の未来をつくるパートナーとなり得る存在
「Made in Japan」の日本酒がさらに発展するためのサポートがしたい。そう語る坊垣さん自身も大の日本酒ファンだそう。
「地方へ出張するたびに地酒を楽しんでいます。その地域の特色が味わいに表れていたり、違いを楽しめるところが好きです。また、仕事先の方と地酒の話で盛り上がることもあります。コミュニケーションツールとしても魅力的ですよね」
「次世代の日本酒を、いっしょに造っていきたい」という頼もしい言葉から、Makuakeは単なる資金調達としての場ではなく、酒蔵の良きパートナーとなる存在だと感じました。クラウドファンディングによって、日本酒の可能性は今後も大きな広がりを見せていきそうです。
(文/SAKETIMES編集部)