近年、日本酒市場で盛り上がりをみせる「クラウドファンディング」。数あるクラウドファンディングサイトのなかでも、特に日本酒に注力しているのが「Makuake」。関連するプロジェクトは100件を超えようとする勢いです。

そんなMakuakeでプロジェクトを立ち上げた日本酒の数々が一堂に会するイベント「Makuake 日本酒 Night」が今年も開催されました。今回は、日本酒市場の現在や未来が語られた、有識者によるトークセッションの様子をお伝えします。

「Makuake 日本酒 Night 2019」でのトークセッションの様子

意見を交わしたのは3人。

まずは、平和酒造の代表取締役専務・山本典正さん。大学卒業後、東京でのベンチャー企業勤務を経て蔵へ戻り、新ブランド「紀土」を誕生させました。日本酒業界に新風を吹かせるべく、蔵の組織改革にも力を入れています。日本酒の新時代を先導する若手蔵元です。

続いて、業界大手の白鶴酒造で商品開発を担当している佐田尚隆さん。「従来の白鶴とは異なる、これまでにない別格のお酒を造りたい」という思いで、企画から商品設計までのすべてを20~30代の若手社員で手掛ける「別鶴(べっかく)プロジェクト」を立ち上げました。業界トップクラスの売上を誇る会社にいながら、日本酒の未来に危機を感じ、新しい挑戦に取り組んでいます。

そして最後は、SAKETIMES編集長の小池潤。市場を広く俯瞰しながら日本酒の情報を発信し続けてきた立場として、業界の現在と未来を語ります。モデレーターを務めるのは、Makuakeの取締役・坊垣佳奈さんです。

同じ業界にいながら立場の異なる3人が考える日本酒のいまとこれからとは、どんなものなのでしょうか。

日本酒は「日常」から「特別」へ

最初のトークテーマは、現在の日本酒市場について。

SAKETIMES編集長・小池潤

SAKETIMES編集長・小池潤

「日本酒は消費量・酒蔵数ともに減少を続けています。しかし、ネガティブな事実ばかりではありません。普通酒の消費量は減少していますが、こだわりをもった高価格帯の特定名称酒は増加しています。これは、日本酒が日常的に飲まれるものから、特別な日に飲むものへとシフトしていることを示しています。理由のひとつとして、娯楽が溢れている現代社会では、『飲酒』という娯楽そのものが相対的に選ばれなくなってきていることが挙げられるのではないでしょうか」(小池)

一方、山本さんは特定名称酒が世に出始めた背景を次のように語りました。

「私が蔵へ戻った時の大きな問題点は、売上をパック酒に依存していることでした。すでに日本酒業界は右肩下がりを続けており、私の蔵も例外ではありません。パック酒という安価なマーケットは価格競争の真っ只中で、私たちのような中小蔵が大手メーカーに対抗するためには価格を下げるしかなかった。こうした状態がデフレスパイラルを招いていたのです」(山本さん)

平和酒造の代表取締役専務・山本典正さん

平和酒造の代表取締役専務・山本典正さん

「普通酒マーケットの限界は明らかに見えていましたが、これは当たり前の話。パック酒などの普通酒は味やスペックによる差をつけにくいので、価格を下げる道しか残されていませんでした。そんな状態で、いかに地酒蔵としての個性を出すかが求められ、他商品との差別化を図りやすかったのが特定名称酒なんだと思います」(山本さん)

普通酒を売るためには、価格を下げるしか手段がなかった中小蔵。そこで次なる一手となったのが、蔵による個性を出しやすい特定名称酒だったのです。トークのテーマは、日本酒業界のトレンドに移っていきます。

リスクを恐れずに挑戦する

山本さんは「日本酒の多様化が進んでいると思います。WAKAZEなど、新しい日本酒の造り手が現れていますが、まだまだ日本酒は新規参入がしにくく、それが多様化の幅を狭める要因になっています」

「Makuake 日本酒 Night 2019」でのトークセッションの様子

「そんな業界を変えるべく、平和酒造では社内の組織改革を進めています。意思決定が速く、すぐ行動に移せるベンチャー企業のような蔵にしたいと考え、酒蔵としては珍しく新卒採用に力を入れています。昔と同じような就労環境では、酒蔵で働きたいと思うような人も増えず、業界は活性化しない悪循環をたどってしまう」(山本さん)

40代でも若手といわれる日本酒業界において、新卒採用に力を入れている平和酒造は、まさに次世代の蔵。さらに、伝統と歴史のある大手蔵でも、新たな動きがあるようです。白鶴酒造の佐田さんは次のように話します。

「白鶴酒造も昔は新しいことをやっていた会社ですが、近年は守りに入っていると感じていました。そんな状況に風穴を開けたいと思ったんです。そして、将来の看板商品となるような、若者向けの新商品を造りたくて『別鶴プロジェクト』を立ち上げました」(佐田さん)

白鶴酒造の商品開発本部主任・佐田尚隆さん

白鶴酒造の商品開発本部主任・佐田尚隆さん

「しかし、当初は社内の反発が強く、なかなかプロジェクトを進められない状態でした。そこで、集まった金額や支援者の数など、客観的な評価を得るためにクラウドファンディングを始めました。数字を示せば、上司にも納得してもらえると思ったんです。現在は多くの方々にご支援いただき、その過半数は白鶴の既存ファンとは異なる20代や30代。強い反響を感じています」

2人の話を聞いた小池は「日本酒は歴史や伝統を重んじる業界。そのなかで、新しい挑戦をすることは簡単ではありません。だからこそ、これからの業界には、ベンチャー企業のようにリスクをとって行動する存在が必要になってくる」と説明しました。

続けて、小池は海外市場における新たな動きがあることを話します。

わずか25㎡の小さな蔵内で酒造りに取り組む「カンパイ・ロンドン・クラフト・サケ」のトムさん

「海外で日本酒に興味をもつ人が増え、それに伴って現地での醸造も増えてきています。イギリスの酒蔵『カンパイ・ロンドン・クラフト・サケ』のスタートは、自宅でSAKEを造る『ホームブリューイング』。多様な形の現地醸造が増えてきているのは、日本酒業界にとって良い兆しだと感じます。海外の酒蔵は成長スピードが速く、SAKEのレベルもどんどん上がっている。今後に期待がもてる存在ですね」

新たな挑戦をすることが簡単ではない日本酒業界ですが、業界の活性化につながるような動きは確実に生まれています。

転換期を迎える日本酒業界

イベントに参加していた女性2人に話をうかがいました。Makuakeでクラウドファンディングを行なっている「別鶴プロジェクト」を支援しているのだとか。

「Makuake 日本酒 Night 2019」の参加者

「最近は、甘くて飲みやすい日本酒が発売されているので、いち消費者としても日本酒の多様性を感じます。いろいろなタイプの日本酒があるので、友達にもおすすめしやすくなりました」と話してくれました。

今回のイベントで語られたのは、日本酒を取り巻く環境が大きく変化している事実。この転換期のなかで、日本酒はどんな新しい価値を消費者に届けることができるのでしょうか。そして今後、どんなクラウドファンディングのプロジェクトが進んでいくのか、日本酒のこれからに期待の高まるイベントでした。

(文/SAKETIMES編集部)

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