急速な高齢化が進んでいる日本。地方においては特に顕著で、過疎化や若年層の流出が課題になっています。日本酒業界をみても、人口減少や若者の"酒離れ"などの影響によって、消費量は右肩下がりです。
北鹿が蔵を構える秋田県大館市も例外ではありません。そんななか、北鹿は日本酒を通して、地元を活性させる活動に取り組んでいます。
3年前からスタートした新卒採用もその動きのひとつ。これまで中途採用のみだった北鹿は、どのような考えで方向転換したのでしょうか。地元に根づく企業としての役割について、社長である岩谷正人さんや、実際に酒蔵で働く若手社員、地元出身の社員に話を聞きました。
いちばんの課題は人手不足
北鹿が新卒採用を始めたのは3年前。これまでに高卒で入社した社員5名に加えて、今年は3名の内定者がいるのだそう。「若い社員が入ったことで、会社の雰囲気が大きく変わりました」と、岩谷社長は話します。
「これまで、酒造りに携わる人たちは半年間は農家として、残り半年は蔵人としてという働き方でした。しかし、高齢になって働けなくなる人が増えてしまい、人手不足が課題になっていたんです。そこで若い人材を社員として採用し、酒造りを通じて地元の魅力を感じてもらい、地域全体の活性化につなげていこうという考えに至りました」
ただし、少子化の影響で地元の若者が大きく減っているのが現状。今年度は、地元企業からの求人が約500人であるのに対し、高卒で地元就職を希望する人数は約160名です。
「若い働き手を確保するのが難しくなっています。今年、3人を採用できたのは、会社としての魅力があらためて浸透してきた証拠でもあると思います。『北鹿であれば、長く働く職場として間違いない』という信頼を得られてきているのではないでしょうか」
新卒採用だけでなく、Uターンなどの中途採用も積極的に受け付けています。それぞれのルートで北鹿へ入社した社員の方々は、どんな考えをもって働いているのでしょうか。
地元出身&若手のスタッフにインタビュー
さっそく、社員の方々に話を伺いました。
入社して4年目という田畑健さんは、仙台で飲食業を経験した後、30代半ばで地元・大館市に戻って北鹿に就職しました。
「いずれは地元に帰ろうと考えていたんです。もともとモノづくりが好きで、秋田県といえば酒造り。日本酒は地元を発信する産業でもあるので興味をもちました。お酒はあまり飲めないんですが......(笑)」
松岡文明さんは、会社初の新卒採用。現場では、ムードメーカーとしてみんなを盛り上げていました。
「経営者である父の背中を見て育ってきたので、跡を継ぎたいと考えていましたが、父からは一度社会に出ることを勧められました。そこで、昔から知っていたということもあって、北鹿に興味をもったのがきっかけですね。入社当時は日本酒が何からできているのかすらわかっていませんでしたが、今では製造の第一線で少しでも良いお酒を造りたいと思ってます」
入社2年目の櫻庭光城さんは、松岡さんの高校の後輩。県内の農業高校で米の勉強をしていたそうです。
「酒飲みの一家なので、お酒は小さい頃から身近な存在でした。とはいえ、酒造りのことはまったく理解していなかったので、身体を動かしながら少しずつ覚えています」
昨年、各工程の担当者を総入れ替えし、それぞれの担当が新しくなったのだそう。スタッフひとりひとりがすべての工程を習得できるようにという会社の意向です。工程ごとにポイントが異なるぶん、学びも多いようです。
「洗米は後々の全工程に影響してしまうので、失敗が許されないポジションです」(松岡さん)
「もちろん、ミスしないに越したことはありませんが、その後の工程でカバーできることも多いんです。協力し合うことで、最終的な誤差を小さくしていく。チームワークがものを言いますね」(田畑さん)
「米を蒸す窯場の作業は機械の調整など、同時にいろいろなことを気にしないといけないので、神経を使います。手の感覚で、蒸米の状態を見極めるのは、まだまだ難しいですね。ただ、20歳になって初めて自分のお酒を飲んだときはとても感動しました」(櫻庭さん)
酒造りの現場を見ていると、真剣さのなかにも、若手を中心とした楽しそうな雰囲気が伝わってきました。
「人間関係はすごく良いですよ。作業が始まるときに『よし、やるぞー!』とみんなで声をかけ合ったりして。常にコミュニケーションを取りながら作業しています」(松岡さん)
「北鹿にはいろいろな人がいておもしろいです。機械のトラブルは前職でトラックの整備士をしていた人に診てもらったり、米のことを田んぼ農家の人が教えてくれたり、断線したときは元溶接工に直してもらったり......さまざまな分野の専門家が揃っているので、何かあったときは頼りになりますね」(田畑さん)
地元で働く魅力とは
県外に就職する人も多いなか、地元で働くことの魅力とはどんなものでしょうか。
「北鹿は地元のみんなが知っている企業なので、どこへ行っても歓迎してもらえますね」(松岡さん)
「自然が豊かなところです。小さい頃から育った場所なので、やっぱり落ち着きます。出張に行くとすぐにホームシックになってしまいます(笑)」(櫻庭さん)
「実家に住み続けられるとリラックスできるので、そのぶん仕事にしっかりと集中できます」(田畑さん)
みなさんに、今後の目標についても聞きました。
「酒造りをもっと深く理解できるように、まずはすべての工程をこなせるようになることが目標です。どんな状況でも、自分が代わりを務められるようになりたいですね」(田畑さん)
「最終的には経営力を身につけたいと思っています。そのために、ひとつの部署を任せてもらえるくらいまで、北鹿で成長していきたいです」(松岡さん)
「僕は杜氏になりたいです。品質をさらに上げて、美味しいけれど安くてみんなが楽しめるようなお酒で、北鹿のブランド力を高めていきたいです」(櫻庭さん)
若手社員が増えたことで、会社全体の士気もあがったと話す岩谷社長。「若い社員にもどんどん新しいことを経験してもらって、自分のやりたいことを見つけてほしいですね。ベテラン社員にとっては『負けられない!』という良い刺激になっているようです」とのことで、今後も人材育成には力を入れていくそうです。
大館市で唯一の酒蔵としての存在感
採用関係のほかにも、北鹿は地域との結びつきを強める活動に取り組んでいます。2007年から、地域の宮司や住職、会社経営者などが中心となって「北鹿ささの会」を設立し、現在に続いています。
「『北鹿ささの会』は異業種の方々が集まって情報交換をし、会費の一部を何らかの形で社会に役立つ寄付をしようという趣旨で、毎年行われています。『町を活性化させたい』という思いをもった地元の方々が、北鹿を飲みながら結束を深める会です」(岩谷社長)
岩谷社長は「イベントをはじめとした取り組みを通して、これからも地域密着型の企業として、地元の人にももっと北鹿を飲んでもらえるように働きかけていきたいですね」と、地元への思いを話します。
大館市を代表的する地場産業として、大きな期待が寄せられる北鹿。次世代の若手社員が活躍する未来の姿を垣間見ることができました。これまでの歴史や地元の思いを背負いながら、今後も地域にとってなくてはならない企業として、大館市の発展を担っていくことが期待されています。
(取材・文/橋村望)
sponsored by 株式会社北鹿