日本でも有数の硬度をもつ仕込み水で醸される、千葉県・岩瀬酒造の日本酒「岩の井」。

硬い仕込み水は発酵を促進するため、力強い酒質になりやすく、"辛口の男酒"というイメージを持たれることが多かった「岩の井」ですが、2020年にそのイメージを覆す純米吟醸の「岩の井 赤ラベル」シリーズをリリースしました。

酒米の品種違いで造られた中汲み無濾過生原酒「岩の井 赤ラベル」シリーズは、フレッシュさと輪郭のはっきりとした酒質から、地元・千葉のみならず他県の酒販店でも取り扱いが始まり、人気が高まっています。

岩の井の赤ラベルシリーズの全7種類

数多くの日本酒の銘柄が存在するなかで、「岩の井 赤ラベル」シリーズは、どのような点が評価されているのか。

今回の記事では、全国の銘柄を満遍なく取り扱う2軒の酒販店、岩瀬酒造と古くから取引のある千葉の「IMADEYA」と、新しく取り扱いをはじめた大阪・堺の「松仙(まつせん)」を訪ねて、お話をうかがい、その人気の秘密を探ります。

「IMADEYA」が考える、海外ワインと「岩の井」の共通点

1962年、千葉県千葉市で創業した酒販店「IMADEYA」。2022年現在は、本店に加えて、千葉駅構内、銀座、錦糸町、清澄白河に、異なるコンセプトの5店舗を展開しています。

「IMADEYA」千葉本店の外観

「IMADEYA」千葉本店

「岩瀬酒造さんとは、創業して間もないころから長くお付き合いさせていただいており、弊社のベテランスタッフはみんな酒蔵を訪れたことがあります」

そう話すのは、和酒部門のスーパーバイザーを務める操田薫(くりた かおる)さん。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの資格を持ち、かつてワイン関係の仕事をしていた操田さんから見て、「岩の井」の酒質はとてもユニークだといいます。

いまでや 和酒部門SV 操田薫さん

「いまでや」和酒部門スーパーバイザー 操田薫さん

「骨格がしっかりしていて、ボリュームがあり、飲んだ瞬間から味の輪郭を感じられるのが『岩の井』の特徴です。当店のお客さまでも、ワインに詳しい方や、ワインを扱っている飲食店の方などに受け入れていただいています。

『岩の井 山廃純米大吟醸 2017』は、世界的なワイン評論家のロバート・パーカー氏が考案したパーカーポイントという指標で、95点という高評価を獲得しています。山廃仕込みでこの評価を得られるのは、とても珍しいのではないでしょうか」

操田さんはワイン好きに評価されるポイントとして、岩瀬酒造の仕込み水が、硬度の高さで知られる兵庫・灘の仕込み水「宮水」の180ppmを超える、250ppmという日本屈指の硬さであることに着目します。

岩瀬酒造の井戸水

岩瀬酒造の仕込み水

「250ppmは世界の水準でいうと中硬水(101~300ppm)に分類されますが、この数値は海外の水に近く、海外ワインに親しみのあるソムリエの方々にとって受け入れやすいのだと思います。

前職でワインを取り扱っていたのですが、何百本というワインをテイスティングしたうえで思うのは、ワインの味わいを決める要素のひとつにぶどうの"テロワール"があり、テロワールの要素に含まれる"水の質"もワインの味わいに影響を与えるのではないか、ということ。

ワインは水を使わずに醸すお酒というイメージが強いかもしれませんが、ぶどうにはその土地を感じられる水分がとても多く詰まっています。ぶどうの木は水をほとんどあげずに育てるので、木の根が水分を求めて地中深くまで伸びていき、根っこが岩盤を突き破って水を吸い上げることもあるぐらい水を求めます。その水がぶどうには含まれているんです。

海外ワインが好きなお客さんには、中硬水の土壌の水を吸収して育ったぶどうで醸されたワインに馴染みがあると思うので、同じように中硬水で仕込んだ日本酒を評価していただきやすいと感じています。そういう意味でも、『岩の井』はワイン好きの方にもおすすめできる日本酒ですね」

2020年にリリースされた「岩の井 赤ラベル」シリーズについては、シーズンごとに7種類すべてをテイスティングしたうえで、酒米の個性がわかりやすい商品を仕入れているそうです。

いまでやに陳列された岩の井

「造りをほぼ統一しているので、微妙なお米の違いがよくわかっておもしろいですね。個人的にもっとも好きなのは酒米『玉栄(たまさかえ)』のお酒。岩瀬酒造さんらしい特徴がいちばん出ていると思っています。ボリュームがあるけれど余韻の渋み、苦みが魅力的で、通向けの味わいですね。

五百万石と美山錦もよく仕入れさせていただいています。日本酒をそこまで飲み慣れていない人が飲んでも、パッとひと口でおいしさがわかりやすいお酒だと思います」

「岩の井」について、「この酒質のお酒は、ほかを探してもなかなかない」と太鼓判を押す操田さん。近年、酒蔵から仕入れたお酒に付加価値を与える取り組みとして、自社の貯蔵庫で熟成を進めている「IMADEYA」ですが、その中でも「岩の井」は熟成にも向いていると評価します。

いまでや 和酒部門SV 操田薫さんと岩の井

「どこにも真似できないオリジナリティがあるのが『岩の井』。酒販店はいろいろなカードを持っているほうが、多様なお客さんを惹きつけられるというメリットがありますが、まさに『岩の井』は、IMADEYAのカードを多彩にしてくれています。

岩瀬酒造さんの魅力は、水の硬さを活かした力強い酒質だと思うので、わがままを言えば、このまま変わらないでいてもらいたいですね。ブラッシュアップは必ずされると思いますが、流行に合わせすぎることなく、食中酒を愛するファンに常に寄り添い続けるお酒であってほしいなと思っています」

「松仙」が考える、食中酒としての「岩の井」の可能性

1893年に大阪府堺市で創業した老舗酒販店「松仙」。4代目店主の坂井博文さんは、全国の酒蔵からお酒を取り寄せて試飲し、知名度に関わらずポテンシャルを感じるお酒を仕入れています。

松仙の外観

大阪・堺の酒販店「松仙」

「安心・安定のブランドと、ユニークな銘柄が混在しているので、うちに来る人は『何かいつもと違うものが飲めるんじゃないか』と期待してくれています。変な酒屋だとよく言われますよ(笑)。

キラッと光る原石を見つけて育てるのが酒屋の使命。『岩の井』は3年前くらいから一気に美味しくなったと感じて、去年から取引を開始しました。ここからもっと美味しくなっていくだろうと期待しています」

「松仙」代表取締役 坂井博文さん

「松仙」代表取締役 剣道教士七段 坂井博文さん

岩瀬酒造の商品でも坂井さんが特に惹かれたというのが、「岩の井 赤ラベル」シリーズの「山廃 純米吟醸 山田錦」です。

「『岩の井』の山廃は、派手さはないけれど喉の奥にスッと流れ込むようなキレのよさがあり、どんどん飲み続けることができます。肉料理の脂っこさを酸味で流してくれるワインのような魅力もありますよね。

五百万石は一歩引いたような奥ゆかしさがあり、総の舞(ふさのまい)は独特のお米感があって、雄町はチャーミング。それぞれのお米の特徴がはっきり出ています。

日本酒は水が原材料の8割を占めますが、『岩の井』は仕込み水のおかげか、味がボケないんですよね。燗にして温めても、燗冷ましにしても味が維持されるし、抜栓して2週間くらい経っても劇的に味が変わるなんてこともない。水の強さがあってこそだと思います」

岩の井赤ラベルシリーズの山廃 山田錦

「岩の井 赤ラベル 山廃 純米吟醸 山田錦 中汲み無濾過生原酒」

関西周辺だけではなく、全国各地の銘柄を満遍なくそろえている「松仙」。坂井さんは、ご自身のお店について、"動物園"に例えてこんなお話をしてくれました。

「僕が本当に好きなのは爬虫類なんですが、爬虫類しかいない動物園が地方にあっても誰も来ないんですよね。だから、パンダやキリン、ゾウのような人気者をそろえて、それらを見にきた人が爬虫類にも触れられる機会を作る必要があります。

『赤ラベル』シリーズは、人気者のあとに爬虫類を紹介する一歩目というような、日本酒の多様な魅力を知ってもらうのに最適な一本です。フルーティー系や淡麗系のお酒で日本酒を好きになったあと、『いつもと違うものを試してみたい』という人や、『料理とお酒を合わせたい』と考え始めた人に案内しやすいお酒です」

「松仙」の店内画像

関西で「岩の井」を取り扱っているのは、「松仙」を合わせて数店の酒販店のみ。まだまだ流通が少ないことに対して、坂井さんは「うちが発信の拠点になっていきたい」と意気込みます。

「私は『うちだけにしか卸すな』と独占するようなことはまったく考えていません。銘柄というのは、点だけでは育たず、点が集まって面で育てるもの。いろいろな酒屋さんが、みんなで育ててこそ、愛されるブランドになるものなんです。

すでに売れているお酒のみを仕入れて、コロコロと取扱銘柄を変えるのではなく、ポテンシャルのあるお酒を育てるのが、マーケターとしての酒販店の役割。この記事を読んで、『岩の井』に興味を持った関西の酒販店さんが取り扱いを始めてくれたらうれしいですね」

坂井さんと岩の井

地元・千葉で長年の付き合いを重ねてきた「IMADEYA」と、近年新たにその魅力を見出した大阪の「松仙」。いずれも「岩の井 赤ラベル」シリーズは、日本酒のディープな世界へ踏み入れるのにぴったりなお酒だと評価していました。

日本屈指の硬い仕込み水を活かした輪郭のはっきりとしたキレのある味わいで、特異なポジションをとる「岩の井 赤ラベル」シリーズ。新たな食中酒としての可能性を、ぜひ飲んで感じてみてください。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)

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