岐阜県羽島市で280年もの間、酒造りを続けてきた千代菊株式会社。「地元のための地酒」をモットーに、地域住民との交流にも力を入れてきました。
酒造りに地元の水と米を使うのはもちろんのこと、地域の人々が田植えから仕込みまでを一貫して体験できる「羽島体験プロジェクト」や、地元から愛されている年2回の蔵開き、毎月開催される酒蔵を舞台にしたコンサートなど、さまざまな形で、羽島の産業や文化を牽引してきました。今回は、千代菊と羽島市の関係について、羽島市長・松井聡氏に話を伺います。
松井市長は羽島市役所に勤めて38年。市の計画策定や病院の経営、教育行政などを経験した後、2012年、市長に当選しました。地元を愛し、長い時間をかけて羽島市の発展に尽力してきた松井市長は、千代菊をどのように捉えているのでしょうか?
取材を行なった日、ちょうど、千代菊の蔵開きが開催されていました。地元の人々はもちろん、愛知県や静岡県など、県外からもたくさんの千代菊ファンが集まっていたようです。
蔵開きのスタートを告げる鏡開きは、松井市長の役目。「羽島の歴史と発展に欠かせない千代菊のこれからの発展を祈って!」というあいさつとともに、木槌を振り下ろしました。
にぎやかな雰囲気のなかで、松井市長に話を伺います。
羽島の産業・文化をリードしてきた千代菊
羽島市は、木曽川と長良川に挟まれた平地。稲作をはじめとした農業と織物を中心に、長く栄えてきました。特に、千代菊が位置する竹鼻町は城下町として繁栄し、明治時代以降は紡績工場が集中。繊維の町としてもにぎわいました。
松井市長は「羽島の特徴は、なんといっても豊富な水資源です」と話します。そんな羽島で、産業と文化の中核として親しまれてきたのが、千代菊です。
「酒瓶のひとつひとつに風格が宿っています。松竹梅のロゴをあしらった千代菊の酒瓶は、町のシンボル。強い愛着をもっている地元の方々がたくさんいます」
羽島で育った松井市長も、幼いころに蔵の前をよく通っていたそうで、地元のお祭りで千代菊のお酒が必ず振るまわれていたことも覚えているのだとか。日常の中に、しっかりと溶け込んでいるんですね。
また、千代菊の先代当主は初代・羽島市文化会長を務めていたため、ラジオ番組への出演やエッセイの執筆など、さまざまな形で地元の文化をリードしていました。松井市長も先代当主の話を聞きながら、羽島について学んでいったのだそう。
以前、羽島の広報業務に関わっていた松井市長は、地元の文化と千代菊が切り離せない関係にあると感じていたそうです。
「羽島は、織物に並ぶ産業をなかなか見いだせませんでした。しかし、千代菊が酒造りを根付かせたことで、"酒造りの町"というアイデンディティをもつことができたのです」
さらに松井市長は、千代菊が人と人をつなぐ役割を担っていたと言います。
「お酒はコミュニケーションにおいて重要なアイテムですよね。地元の人同士で集まったときに会話を飾る日本酒は、もちろん地元の銘酒・千代菊です。みんなで寄り合ってお酒を酌み交わしながら、地元の歴史や産業、文化について語る。そんなコミュニケーションの礎を築いてきたのが、千代菊だと思っています」
千代菊の存在が羽島の産業や文化を創造・発展させてきたことが、松井市長の話から充分に伝わってきました。
「千代菊は欠かすことができない存在」
農業や織物に加え、酒造りを産業として発展してきた羽島ですが、近年は人口減少が進み、市街地がシャッター通り化しつつあるのも事実です。この状況を打破し、羽島をますます発展させていくために、松井市長は千代菊に大きな期待を寄せているのだそう。
「千代菊は、羽島を盛り上げるためのさまざまなイベントを開催し、多くの人を惹きつけています。鉄道会社主催のウォーキングラリーでは、毎年何千人という方々が羽島を訪れますが、観光客は千代菊の酒蔵を必ず訪れるのです。これはやはり、千代菊が確固たる地位を築いている証拠。羽島の観光事業にとって、大きな役割を果たしています。
市としても、観光交流センターや歴史民俗資料館、映画資料館をはじめ、今年4月には、町家を建て直した不二竹鼻町屋(ふじたけはなまちや)ギャラリーという施設を整え、よりいっそう、観光事業に力を入れていくつもりです。そのなかで、観光資源という点でも、千代菊は欠かすことができない存在ですね」
また、松井市長は千代菊が長年取り組んできたアイガモ農法についても、一目置いているようです。
「自然が豊かで肥沃な水田を利用したアイガモ農法からできるお酒は、他の銘柄と明らかに味わいが違います。その上、日本酒ファンの方々が、米づくりから醸造までを体験できる。これは、日本の食文化を継承する尊い活動です」
「日本古来の食文化は尊く、そのなかでも日本人の心に響くのは米、そしてお酒。さらに、そこから生まれる日本人特有の文化とコミュニケーションです。千代菊が、地元に愛される"平凡の銘酒"を造り続けて、さらなるチャレンジをしてくれることが、羽島の新しい魅力づくりにつながると思っています」
千代菊は古くから、羽島の産業と文化をリードする役割を担ってきました。真の"地酒"とは、ただ単純に地元の米や水を使って造られたお酒のことではないのかもしれません。酒造りを通じて、地元のコミュニケーションを支え、地域のアイデンティティを確立していくお酒こそ、真の"地酒"と呼べるのではないでしょうか。
(取材・文/石根ゆりえ)
sponsored by 千代菊株式会社