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酒に寄り添う今夜の逸品 その15「ポテト・フライ」-池波正太郎『小説の散歩みち』より-

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今宵もまた、文学作品から酒肴のお膳立て。『小説の散歩みち』は、池波氏自身の幼少期から時代小説の名手となるまでの、数々の出来事や当時の思いをちりばめたエッセイ集です。歴史上の人物、旅行や芸能、そして食などに対する豊かな感性が満載。読むたびに、池波正太郎という人間像にますます惹かれていきます。

大作家の一端がうかがえる、思い出の味

なんという子どもでしょう。キャラメルより惣菜屋の料理が好きだなんて。池波少年のグルメぶりに、食の分野でも一目置かれた大作家の一端がうかがえます。この「ポテト・フライ」は、幼少期の愛着が家庭の味にまでなったそうですが、それは現在よく目にする"フライドポテト"じゃないんです。

池波氏は"フライドポテト"(氏いわく、ふかしたジャガイモを、パン粉をつけずにカラ揚げにしたもの)」を引き合いに出し、こう言っています。

うまいことはうまいが、とても我家の「ポテト・フライ」には及ばぬ。
我が家のは、親指の先ほどに小さく、ころころに切ったジャガイモにたっぷりパン粉をつけて揚げ、むかし通りに生キャベツにウスターソースをたっぷりかけて食べる。
食べると三十年余前の自分に返った気持ちがする。

(同書より)

昔からこよなく好きで、今も自宅で料理してまで味わいたいものといえば...。私は「ハムカツ」を思い浮かべますが、おそらく池波氏のそれには及ばず、旨いものに対する執着心の差を思い知らされます。

池波正太郎こだわりのポテト・フライを再現

池波氏の家庭に倣い、親指の先ほどに切り、ごく普通のフライにしてみました。付け合わせはキャベツのみ。手軽な肴をごてごてと飾り付けるのは野暮な気がしますし、トマトなどは一般的でなかったであろう当時の、戦前・下町のイメージを演出してみました。

ひょいと一粒、口にしてみると、からりとしたパン粉の風味の中で、イモの旨みが引き立って美味しい。思いのほかイモが甘く感じられました。その気になれば、ソースなどかけずにどんどん食べられそうです。「キャラメルを買うより」と、池波少年がこれにハマったのも頷けますね。

ウスターソースをかけたキャベツとともに頬張れば、美味しさは爽快にして痛快。これは酒に合うこと間違いなし。少量ずつ食べられるので急にお腹を一杯にすることもありません。とても粋なツマミだと思いました。

池波氏はもっぱらビールの肴として親しんでいたようですが、現代には冷やして清涼感を楽しむ日本酒もたくさんあります。これを知ったら「そんな酒にも良い」と書いてくれたかもしれません。

粋なツマミを濃醇旨口な「花さかゆうほ」で楽しむ


「遊穂 花さかゆうほ 純米吟醸 無濾過生原酒 うすにごり」(御祖酒造/石川県)

料理を引き立てるなら遊穂。抜栓した瞬間、香る吟醸香は実に爽やか。発泡感を感じながら口に含んでみれば、甘みをまとった鮮やかな酸が広がります。

ごらんのような、おりがらみ。呑んでみれば、今なお発酵しているぞと言わんばかりの生き生きとした含み香が印象的でした。爽快感が呑み手を惹きつけます。

そして、ポテト・フライとも期待通りに相性抜群。存在感ある酸の力が揚がった衣と、旨みや余韻が淡いポテトの味と、それぞれに溶け合いつつ相手を引き立ててくれます。

ビールとならウスターソースたっぷりでも良いでしょうが、日本酒となら、あえてソースは控えめにしてイモの旨みをしみじみ味わう、そんな楽しみ方もできそうですよ。

(文/KOTA)

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KOTA(コタ)

旨い酒と肴に心の居場所を求める晩酌マニア。家では「呑むなら作るべし」と自作の肴に舌鼓。日々繰り返す「呑み過ぎ&反省」のジレンマから、不惑の呑兵衛になるべく利き唎酒師を取得。広告制作および物書き稼業の傍ら趣味で里神楽(獅子舞)も。

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