最近「日本酒は健康に良い」という情報をよく見聞きするようになりました。日本酒には、アミノ酸をはじめとする700種類もの栄養成分が含まれているため、日本酒が健康に及ぼす肯定的な影響についての情報が、ネットを中心に多く流布しています。

いち日本酒ファンとしては、願ったり叶ったりでしょう。しかし、医学的な観点からみた本当のことを知りたいですよね。そこで今回、『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した日本酒好きの医師・浅部伸一先生に、お酒にまつわる素朴な疑問を聞いてみました。

浅部伸一先生(自治医科大学付属さいたま医療センター)

飲み過ぎを自覚するのは難しい

厚生労働省が示す適度な飲酒量は、純アルコール換算で、1日あたりおよそ20グラム。それ以上を摂取すると、健康のリスクが高まると言われています。お酒を飲みすぎると身体にどんな負担がかかるのか、浅部先生に伺いました。

「多くの人が知っていると思いますが、いちばん大きな影響を与えるのが肝臓ですね。さらに、膵臓(すいぞう)や脳など、がんのリスクを高めることも報告されています」

物言わぬ「肝臓」

「お酒を飲み過ぎると肝臓に悪い」ということを多くの人が知っているように、アルコールを分解する機能をもっている肝臓は、処理能力をオーバーするほどの飲酒をすると大きなダメージを受けます。肝炎という炎症から始まり、症状が進むと肝機能が著しく落ちる肝硬変になり、最後は肝臓がんになってしまうことも。現在、肝硬変に対しては、健康な肝臓を移植する以外に根本的な治療法がないと言われています。

また、肝臓はアルコール以外に脂肪などを分解する機能がありますが、アルコールを分解している間は、脂肪の分解が止まってしまうのだそう。大量のアルコールを分解するのに時間がかかると、その間、脂肪の分解が止まってしまうため、肥満の要因にもなってしまいます。

治療が難しい「膵臓」

お酒を飲み過ぎることで、膵炎を起こしてしまう人もいるのだとか。炎症がひどくなると、痛みの激しい急性膵炎を発症してしまうことも。アルコールの影響で、膵臓がじわじわとダメージを受けてしまうのです。

もっとも恐ろしいのが、膵臓がん。これは、がんのなかでもかなり治療が難しいのです。膵臓を悪くしてしまう人は比較的少ないようですが、膵臓がどのくらいダメージを受けているのかは、血液検査ではわからないため、注意する必要があります。

アルコールは「脳」の萎縮を早める

極端な量のお酒を飲むと脳が萎縮するということもわかってきました。アルコールの影響で、脳細胞が死んでしまうのです。もともと、脳は年齢を重ねるごとに少しずつ萎縮していくのですが、それを早めてしまうのだそう。

どれくらいの摂取量で脳が影響を受けるのか、まだはっきりとはわかっていません。脳への影響はゆっくりと進行するため、何十年という経過を見ないと検証が難しいのです。ただ、酔っぱらうと性格が変わる人がいるように、アルコール摂取は脳に大きな影響を与えています。

お酒に弱いと高まる「がん」のリスク

飲酒をすることで、がんのリスクが高めることは実際に報告されています。特に、大腸がんや乳がんについては、影響が確実だろうと言われているのだそう。しかし、がんの発症にはアルコール以外の要因もたくさんあるようで、50歳を超えてから急激にリスクが高まるという事実もあります。

お酒を飲むと顔が赤くなる人、すなわち、アルコールに弱い体質の人は注意が必要です。顔が赤くなるというのは、アルコールが分解されたときに発生するアセトアルデヒドという物質が溜まりやすいということ。これは発がん性物質のひとつで、最新の調査によると、アセトアルデヒドの溜まりやすい人がお酒を飲むと、食道がんなどの発症率が大きく高まることが報告されています。

しかし、これはあくまでも、長期的な目で見た場合の影響です。お酒を飲んだらすぐにがんを発症してしまうというわけではありません。もちろん、個人差もあります。

「近年、がん患者が増えている要因として、現代人が長生きになったことも挙げられますね」と、浅部先生は言います。

厚生労働省が発表している平成28年の資料によれば、日本人の死因第1位はがん、第2位は心疾患です。その背景には、カテーテル治療が劇的に進歩したことで、心筋梗塞で亡くなる人が減った反面、年齢を重ねた人たちががんを発症させる傾向があるという見方をすることもできるようです。

出展:厚生省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況」より

出典:厚生労働省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況」より

自分の身体は、自分自身で管理する

「お酒を飲んで臓器がダメージを受けた場合、それを自覚するのはとても難しいです」と浅部先生。飲み過ぎたときに体調が優れなくなる人もいますが、そうした悪化を感じない人もいます。自覚症状のある場合はもちろん、症状がないからといって大丈夫だとは言い切れません。

「お酒を飲んだ後に気分が悪くなる場合は、身体に異常が起きているかもしれません。ただ、まったく平気だという人も、肝臓にダメージを受けていることがあるのです」

"沈黙の臓器"とも言われる肝臓の不調は自覚症状が出にくいため、気付くのが難しいもの。飲酒の適量を守ること、そして、健康診断を定期的に受けることが重要です。

◎参考文献

  • 『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
  • 最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。

(取材協力/葉石かおり)
(文/乃木章)