最近「日本酒は健康に良い」という情報をよく見聞きするようになりました。日本酒には、アミノ酸をはじめとする700種類もの栄養成分が含まれているため、日本酒が健康に及ぼす肯定的な影響についての情報が、ネットを中心に多く流布しています。

いち日本酒ファンとしては、願ったり叶ったりでしょう。しかし、医学的な観点からみた本当のことを知りたいですよね。そこで今回、『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した日本酒好きの医師・浅部伸一先生に、お酒にまつわる素朴な疑問を聞いてみました。

浅部伸一先生(自治医科大学付属さいたま医療センター)

楽しく飲める適量を知ろう

厚生労働省が指標としているアルコール飲酒の適量は1日あたりおよそ20グラム。日本酒に換算すると1合ちょっとしかないため、日本酒ファンにとっては少し物足りないかもしれません。そこで、健康的な飲酒について、浅部先生に教えてもらいました。

お酒の適量は人それぞれ

厚生労働省が推奨している1日あたりおよそ20グラムという数字。女性の場合は、これよりも少ないほうが良いのだそう。女性は男性と比べて肝臓の大きさが小さい傾向にあるため、男性よりもアルコールの影響が出やすいと言われています。

1日20グラムはかなり少ない量ですが、「2合くらい飲んでも平気な人はいるとは思いますよ」と、浅部先生。肝臓の処理能力とアルコールの影響はひとりひとり異なるため、推奨されている量より若干多く飲んでも、さほど害にならない人もいるのでしょう。

そもそも、100%の安心などあり得ません。お酒を飲んだ後の体調や健康診断の結果などを含めた健康管理を徹底し、自分自身が楽しく飲める量をきちんと把握しておくことは、誰にとっても大切です。

厚生労働省の指標は、あくまでも一般的な目安。医学的根拠は扱いが難しく、平均値のようなものなので、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。そのため「目安より少し多めに飲んでも大丈夫な人は、たくさんいると思います」というのが、浅部先生の見解です。

お酒は身体に悪いもの?

ただ、浅部先生は「注意しないといけないのは、現代人の寿命が伸びたこと」と続けます。がんや脳卒中など、お酒による健康への悪影響は、50歳以降に急増する傾向が見られるのです。

厚生労働省が発表する1947年から2016年までの日本の平均寿命推移をみると、1947年の平均寿命は50歳でしたが、2016年には平均80歳以上にまで上昇しています。

出展:厚生省「平成28年簡易生命表の概況/主な年齢の平均余命の年次推移」より

ここ100年で急激に寿命が伸びたため、飲酒と健康の因果関係を示す根拠はまだ足りていないのだそう。そのため、断片的な研究結果のみをもとに、身体への害があるではないかと注目されることも多いのです。

「極論を言えば、こうすれば大丈夫だという根拠がないんですよ。本人がどのくらいまで生きたいかによっても、お酒との向き合い方は変わってくると思います」と、浅部先生。実際、100歳まで健康で生きようとすれば、飲酒だけでなく食生活や睡眠時間、適度な運動など、かなりの節制が求められます。

ゆっくりと健康的に楽しめる「燗酒」

今後、「いかにゆっくりと飲んで、少しの量で満足するかが課題になっていく」と、浅部先生は言います。最近、食事といっしょにお酒を楽しんだり、お酒そのものの香味を感じ取るという飲み方が多く見られるようになってきました。"飲酒の楽しみと健康のバランスを取った落としどころ"を、これから考えていかなければなりません。

浅部先生おすすめの飲み方は「燗酒」だそう。人間の舌は常温より高い温度のほうが味わいをよく感じられるそうで、お酒を温めることで胃の中でのアルコールの吸収が良くなるため、自分の酔い具合がわかりやすくなります。

もちろん、燗酒であれば絶対に大丈夫というわけではありませんが、「燗酒はがぶがぶ飲むことができないので、ゆっくりとお酒を楽しむのにぴったりです。今後、燗酒の提供が増えていくといいかもしれませんね」とのことでした。

◎参考文献

  • 『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
  • 最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。

(取材協力/葉石かおり)
(文/乃木章)