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日本酒の歴史における大発明!「火入れ」の意義とその方法とは?

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「火入れ(ひいれ)」は、日本酒の歴史における大発明のひとつと言っても過言ではありません。

1866年にフランスの科学者、ルイ・パスツールがビールやワインの劣化を防ぐための低温加熱殺菌法を発表しました。しかし日本では、その300年も前から同様の殺菌方法が行なわれていたのです。

"菌"という概念すらなかったであろう時代の人たちが考えついた「火入れ」は、現代でもその理論をほとんど変えることはありませんでした。

なぜ、酒造りに殺菌が必要なのか

そもそも、アルコールの入っている酒になぜ殺菌が必要なのでしょうか。

アルコール度数が10%もあれば、普通の菌は生きていられません。しかし稀に、アルコール中でも繁殖できてしまう屈強な菌がいます。酒造りに必要不可欠な「清酒酵母」はもちろん、「火落(ひおち)菌」と呼ばれる乳酸菌群も実はその類。

酒が火落菌によって汚染されてしまうと、酒に含まれる乳酸が爆発的に増え、酸っぱい香りが出てきてしまいます。さらに、櫂棒(かいぼう)やホースなどの道具に付着した菌がまわりのタンクなどに移ってしまうことで、蔵全体に"腐造"という悪影響を及ぼしかねません。

また、搾った酒には、アミラーゼやプロテアーゼと呼ばれる酵素が残っています。酵素が残っていると、酒に入っている糖やタンパク質を分解してしまい、バランスの良い酒の味が変わってしまうことも。

これらを防ぐために行なわれるのが「火入れ」。

酒を60~65度に加熱することで、残った菌は死滅し、酵素も失活するので、味の変化を落ち着かせることができるのです。

「生酒」「生詰め」「生貯蔵」─ 同じ"生"でもどう違う?

火入れをするまでは酒の中で菌が生きており、発酵し続けるため、火入れをする回数やそのタイミングによって、酒の特徴は変化します。一般的な酒造りでは、酒質を安定させるために2回の火入れを行なうことが多いでしょう。

日本酒は、火入れの回数やタイミングによって「生酒」「生詰め酒」「生貯蔵酒」「火入れ酒」の4種類に大別されます。

  • 生酒:火入れをまったくしない。完全な"生"の状態
  • 生詰め酒:貯蔵用のタンクに入れる前に火入れをし、瓶詰めのときはしない
  • 生貯蔵酒:貯蔵用のタンクに入れる前は火入れをせず、瓶詰めのときにする
  • 火入れ酒:貯蔵用のタンクに入れる前と瓶詰めのときに、計2回の火入れをする

ラベルに"生"と明記されていないものは、おおよそが「火入れ酒」でしょう。

では、この火入れがどのように行なわれているのか。その方法をいくつか紹介します。

一般的な火入れは「プレートヒーター」

火入れの工程はプレートヒーターを使うのが主流。あらかじめホースやタンクをていねいに洗っておき、ポンプを使って酒をプレートヒーターに送っていきます。

なにやら複雑そうな機械ですね。円筒の形をした中央部分で湯を沸かし、配管を通っていく酒をその熱で温めるという仕組みです。

温められた酒は、温度を保ったまま綺麗なタンクへ。

タンクに入ったときの温度が、だいたい63度。これ以上温めるとアルコールが飛んでしまい、反対に低くなってしまうと殺菌が不十分になってしまいます。適切な温度を守ることが、上手な火入れの第一歩といえますね。

火入れが終わった酒はすぐに冷却。実は、すぐに冷やした方が酒へのダメージを軽減できるのです。ここでいう"ダメージ"は、酒の香味が損なわれること。殺菌効果だけに着目すれば、熱い時間の長い方が良いでしょう。

ただ、30度くらいのぬるい温度帯がもっとも危険で、酒質を下げてしまいます。殺菌したらすぐに冷やすという、メリハリのある火入れを心掛けたいですね。

効率の良い火入れのために、プレートヒーターと並行して、熱交換器を使う場合もあります。

冷たい酒が通ることで火入れされた酒が冷まされ、逆に、火入れされた酒はこれから火入れされる酒を予熱してくれるという仕組み。

やや複雑なものの熱効率が良く、冷水を使わないのでエコロジーです。火入れ後の急冷にはもってこいの方法でしょう。

より確実な火入れを目指すのなら「熱酒詰め」

酒が商品になる直前の行程「瓶詰め」のときにも火入れを行なう場合があります。「熱酒詰め(ねっしゅづめ)」と呼ばれる、プレートヒーターなどを使って酒を高温にしてから瓶に詰める方法を紹介しましょう。

「熱酒詰め」のメリットは安全性。瓶詰めの前に火入れをすることで、殺菌がより確実に。酒を詰める際に瓶そのものも熱くなるので、さらなる殺菌効果が見込めます。打栓すれば、商品の完成ですね。

多くの酒はお店に並ぶまでの間に2回、火入れをします。

貯蔵タンクに移す前の火入れは貯蔵中の、瓶詰め時の火入れは店頭に並んでから飲まれるまでの劣化を避けるため。二重構造の安全と考えれば、わかりやすいかもしれませんね。

日本酒の流通は基本的に常温流通です。近年になってようやく、生酒が冷蔵で売られ始めましたが、海外への輸出を考えると、冷蔵コンテナと通常コンテナでは運送費がまったく違うので、火入れ酒の出番はまだまだ多いでしょう。

フレッシュ感を残すなら「瓶火入れ」

酒の劣化を防ぐための火入れも、メリットばかりではありません。火入れをすることで、"しぼりたてのフレッシュな味"が失われてしまうことも多くあるのです。

それを見越した上での酒造りも、造り手として腕の見せどころでしょう。しかし、鮮度と安全を両立できないか?と登場したのが「瓶火入れ」です。

その方法はいたって単純。酒を瓶に詰めて仮栓をし、内部温度が63~65度になるよう温め、殺菌するのです。瓶の中まで温める必要があるので、水から湯を沸かさなければならないというのがポイント。

キャップをしっかり締めてしまうと、酒が膨張してキャップが勢いよく飛んでしまいます。

軽く緩めておいたり仮栓をしたりしないと、かなりの勢いで天井に当たって跳弾してしまうことも。きつく締めてしまった人がいた日は、ポーンという音と蔵人の笑い声が聞こえてくるでしょう。

火入れが終わったら湯を抜いてキャップを締め直し、水で冷やします。いきなり冷水をかけると瓶が割れてしまうので、ぬるま湯・冷水・氷水を用意して段階的に冷やしていくのが大切。

瓶をくるくる回しながら酒を均一に冷却します。すばやく冷やさないと、熱によるダメージが大きくなってしまいますが、どうしても時間がかかりますね。手作業になると、一度に扱える数も少なくなってしまいます。

大きな蔵では、熱水のシャワーで瓶を加熱する「パストライザー」で殺菌した後、冷水・冷風を送る「パストクーラー」で品温を下げているところも。

「特定名称酒は全量瓶火入れをしています!」という蔵の酒には、たくさんの手間がかけられているんですよ。

「火入れ酒」も保存に気を付けよう!

火入れした酒は常温での流通が容易になります。生酒のように味が急速に劣化することはありません。

しかし、できるかぎり美味しい状態で飲んでもらいたいと思うのが蔵人というもの。火入れした酒の保管にも少しだけ気を遣ってください。

日本酒の天敵は日光。日光に当たることで、さまざまな化学変化が加速度的に進んでしまいます。具体的には、トリプトファンの分解で生じる3-メチルインドール、都市ガスやタマネギを思わせる香りのメルカプタンやハルマンが発生します。

酒は直射日光を避けるような場所で保管してください。日光によるダメージを受けにくくするために、新聞紙に包まれた商品も見かけることがありますね。

保管におけるもうひとつのポイントは温度。常温で長く置いてしまうと、酒質の変化が大きくなってしまいます。特に、夏の30度近い気温下では、いくら火入れした酒であっても味が落ちてしまうでしょう。

冷蔵庫に入れる必要はありません。台所の床下収納など、温度変化の少ない場所に保管するのがおすすめです。

しかし、それでも変化はあるもの。フレッシュな日本酒を美味しく楽しむには、開栓後できるだけ早く飲んでしまうのがいいかもしれません。

(文・イラスト/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。