JR東日本は鉄道会社としての強みを活かして、「旅と食と地域をつなぐ場」を創り出すことに力を入れています。
この記事では、JR東日本が開催した東京・丸の内にある「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」で行われた東北の日本酒やワインを楽しむイベント「The Sakagura of Tohoku」についてレポートします。
鉄道会社の視点で日本酒の魅力を発信
JR東日本は、JRグループのなかで主に東北・関東・甲信越エリアを担当する鉄道会社。多くの鉄道路線を保有して運営しているほか、多様な関連事業を展開しています。
地域商品の掘り起こしや観光資源の紹介などを通して、日本各地の魅力を発信する活動もそのひとつ。地域の観光資源といえば、やはり日本酒は外せません。そのような背景もあって、JR東日本では日本酒をプロモーションの中に積極的に取り込んでいます。
新幹線の車内で読める雑誌「トランヴェール」では、東日本エリアにある酒蔵を定期的に誌面で紹介。会員限定のサービスや特典がある「大人の休日倶楽部」の会員誌でも酒蔵を紹介するコラムを連載したり、その蔵の日本酒をプレゼントする企画や会員向けの酒蔵ツアー企画を展開したりしています。
豪華な食事を車内で楽しみながら周遊するクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」の旅にも、酒蔵見学がコースに組み込まれています。
2014年には、日本酒をコンセプトにした列車「越乃Shu*Kura」の運行を開始し、車内で新潟県内の銘酒の利き酒や地元の食材にこだわったおつまみを提供しました。
また、JR東日本新潟支社が設立した農業法人「JR新潟ファーム」が育てた酒米「五百万石」を使ってオリジナルの日本酒も発売。新潟県内の4つの酒蔵(今代司酒造、越後鶴亀、吉乃川、君の井酒造)が同じ酒米を使って造った「新潟しゅぽっぽ」は、それぞれの蔵による味わいの違いを感じられる商品です。
さらに、田植えイベントや稲刈りイベントなどを通して米作りにも関わるなど、その活動は多岐に渡ります。
イベント会場は東京駅のそばにある「旅ナカ」の拠点
JR東日本では、在日外国人に向けたプロモーションにも積極的です。2020年12月には、JR東日本が運営する東京・丸の内のレストラン&カフェ「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」で、東北の日本酒を楽しむイベントが行われました。
「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」は、訪日外国人観光客に向けて日本各地の魅力を発信するために、JR東京駅に隣接するグラントーキョー・ノースタワー1階に2020年3月にオープンした施設です。「旅ナカ」の拠点として活躍していましたが、現在は新型コロナ感染拡大にともない、主に日本に住む外国人を対象に情報を発信しています。
こちらでは旅行相談カウンターがあり旅行に役立つ情報を集められるほか、日本のさまざまな地域の食材を使った料理や地酒、カクテルを気軽に楽しんだり、全国の特産品や伝統工芸品を購入することができます。
「The Sakagura of Tohoku」(※)と名付けられた今回ご紹介するイベントは、東北地方の酒蔵やワイナリーと「JAPAN RAIL CAFE」をオンライン中継で繋ぎ、お話を聞きながら各蔵のお酒とそれに合う料理を楽しむというもの。
各酒蔵の蔵元や責任者が、蔵の設備や酒造りの特徴、併設しているショップ、地元の食材や近隣の観光スポットなどの見どころを、ライブでくわしく紹介します。
(※本事業は、令和2年度「酒蔵ツーリズム推進に係るモデル事例構築のための調査業務」について 国税庁より委託を受けた株式会社ジェイアール東日本企画が事業の一貫として運営するものです)
参加蔵は、宮城県の佐浦、山形県の出羽桜酒造、福島県のほまれ酒造と大和川酒造店。そして、ワイナリーの宮城県の仙台秋保(あきう)醸造所です。
参加対象は、東京在住の外国人のみなさんです。というもの、このイベントは当初はJRグループ6社が共同で販売してる日本中を鉄道で旅行して回るのに便利なきっぷ「JAPAN RAIL PASS」のプロモーションの一環で企画されたものでした。この周遊きっぷを利用して旅先で東北の酒蔵に立ち寄ってもらい、日本酒の魅力をもっと知ってもらおうという狙いです。
現在は、在日外国人向けにJR東日本管内の新幹線や特急などで使える「JR EAST Welcome Rail Pass 2020」が2月26日までの期間限定で販売されています。
東北の食材を使ったペアリングメニューを体験
イベント会場に集まったのは、事前予約で申し込んだ10名の東京在住の外国籍のみなさん。
各々の座席には、英語で書かれた日本酒の商品情報と料理のメニューが置かれています。日本酒を4つのタイプに分類したのマトリックス図も用意されていました。
メニューには「本日のドリンクに合わせて特別に仕立てられたお料理」とあり、各蔵の造る日本酒やワインにあわせて5つのペアリングメニューが提供されます。
乾杯酒は、出羽桜酒造のスパークリング日本酒。続いて、スクリーンに登場する生産者の順番にあわせて、お酒と料理が提供されていきます。
この東北の食材を使ったペアリングメニューを考案したのは、旬の素材を使った薪料理と日本酒が味わえる、富山県魚津にある料亭「浜多屋」の濱多雄太シェフです。
実家が富山県で日本料理店を営んでいる濱多シェフは、東京と富山で修業したのちに独立。現在は、富山県で2つの飲食店を経営し、富山の食材と日本酒の魅力を伝えています。
日本最大級の若手料理人コンペティションで2度入賞し、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2019」に取り上げられたという実力派でもあり、さらに、日本酒や日本文化の普及・発展に貢献した唎酒師が任命される「名誉唎酒師」でもあります。
最初に提供されたのは、お弁当箱です。なかを開けると、一口サイズの3つの料理が盛り付けられていました。
「いか人参」に合わせるのは、ほまれ酒造の「会津ほまれ 播州産山田錦仕込 純米大吟醸」。「牛タン最中」に合わせるのは、浦霞の「浦霞 禅 純米吟醸」。「ホッキ飯」に合わせるのは、大和川酒造店の「弥右衛門 純米辛口」です。
「いか人参」は細切りのいかと人参を甘辛く味付けした福島県北部・中部地域の郷土料理。これに合わせるほまれ酒造の「会津ほまれ 播州産山田錦仕込 純米大吟醸」は、「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2015」SAKE部門でチャンピオンに輝き、2016年のG7伊勢志摩サミットでは、各国首脳への贈答品に採用されたお酒です。
華やかな果実香、辛口ながらきれいな甘みと酸味、切れのある気品高い味わいとさわやか後味に、シェフが料理に添えたドライオレンジとハーブがマッチしていました。
仙台名物といえば「牛タン」と「最中」。牛タンは厚切りにして炭焼きすることが多いのですが、濱多シェフは芋ときのこを合わせパテ状にし、最中に詰め、あっさりと仕上げました。
「浦霞 禅 純米吟醸」は、食中酒にぴったりな「浦霞」を代表するロングセラー商品。海外の日本酒コンテストでも受賞しており、その味わいは海外でも広く認められています。上品に仕上げた「牛タン最中」と良く合っていました。
濱多シェフの出身地、富山の魚津には、バイ貝を使った炊き込みご飯の「バイ飯」がありますが、こちらのメニューの「ホッキ飯」は、宮城や福島の郷土料理です。
火を通してほんのり桜色になったホッキ貝のご飯は、観光客にも喜ばれている人気の一品です。
ホッキ貝はお米と一緒に炊かず、日本酒、みりん、醤油、砂糖などで、あらかじめさっと茹でておきます。その茹で汁でご飯を炊き、その上にホッキ貝をのせて蒸らせば、ふっくらとした食感が残り旨味の染み込み具合がほどよいご飯になるのだそう。
すっきり辛口で旨味とのバランスの良い、「弥右衛門 純米辛口」と好相性でした。
「鯖と野菜の紙包み焼」は、宮城や福島などの三陸沖で捕れる名産の鯖からヒントを得た料理。手軽にアレンジできる料理にするために、鯖缶を使っています。温製ソースは、トマトの酸味とチーズのコクが絶妙に絡み合い、レモンのトッピングで後味はさわやか。
こちらの料理には、仙台秋保醸造所の白ワイン「秋保 リヴァーウィンズ ブラン 2020」を合わせました。芳醇な香りのネオマスカットとデラウェアから造られた甘口が特徴的な白ワインの魅力を楽しめる一皿でした。
山形を代表する料理の「芋煮」は、牛肉の脂の旨味が、里芋やゴボウ、大根などの根菜に染み込んで、特に寒い季節にはうれしい温かい一品です。
出羽桜酒造の「出羽桜 一路 純米大吟醸」の甘みと旨味にぴったり合います。「出羽桜 一路」は、「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2008」SAKE部門で、チャンピオン・サケに輝いたお酒です。
料理とお酒のペアリングが終わり、質問タイムの間には、各蔵から2種類目のお酒が用意され、最初のセットとの飲み比べができました。
2種類目のお酒は、「ほまれ酒造 無濾過 純米 生原酒」「浦霞 No12 純米吟醸」「いのち 純米大吟醸」「出羽桜 桜花 吟醸酒」「秋保シャルドネ2019」。いずれも特別感があふれるラインナップです。
季節限定品の「ほまれ酒造 無濾過純米生原酒」は、毎年楽しみにしているファンがいて、早々に売り切れてしまうこともあるのだそう。今回は一般発売の前日に、テイスティングさせていただきました。
「浦霞 No12 純米吟醸」は、さわやかな香りと心地よい酸味、後味のキレの良さが特徴です。昭和40年ごろに「浦霞」の吟醸醪から分離され、のちに日本醸造協会に登録された「きょうかい12号酵母」を使った日本酒で、この酵母は一度は途絶えかけましたが、2019年に復活しました。このお酒は「浦霞」を象徴する一本です。
「いのち 純米大吟醸」は、農薬や化学肥料を使わずに栽培した山田錦を使った「弥右衛門」の最上級酒です。
「出羽桜 桜花 吟醸酒」は、出羽桜の定番酒ですが、2011年には「出羽桜 一路 純米大吟醸」とともに、英国最古のワイン商で王室御用達の「BB&R(ベリー・ブラザーズ&ラッド)社」が初めて扱う日本酒に採用され、海外でもその品質が認められています。
日本酒がどのように造られるのかを学べた充実したセミナーであり、さまざまなタイプの日本酒と東北の名物料理のペアリング体験ができる、とても楽しく贅沢な2時間でした。
通訳を介して、オンラインで繋がった生産者たちに直接質問をすることができ、参加者のみなさんはとても満足している様子でした。
日本に住んで11年という、イタリア出身のクリスティアーナさんにイベントの感想をお聞きました。
「ただお酒を試飲をする会ではなく、オンライン中継を通して、生産者から詳しく説明を聞けるというのが、おもしろそうだなと思って申し込みました。しっかりと学べるセミナー形式だったのが、とてもよかったです。
特に気に入ったのは、すっきり辛口ながら米の甘さも感じた大和川酒造店の『弥右衛門 純米辛口』と、デリケートな味わいの『いのち 純米大吟醸』です。牛タンは普段はあまり食べないのですが、最中仕立てでおいしくいただけました。芋煮はシンプルな料理ながら温たかくておいしかったです。
日本酒は若い時に初めて飲んで、その時から口に合ったけれど、あらためて正しい知識も身につけたいなと思っていました。今後もオンラインでのイベントも予定されていると聞いたので、また参加したいです」
酒蔵ツーリズムはもっと面白くなる
JR東日本では、2021年も酒蔵ツーリズムに注力し、主に東京で働く在日外国人を中心にもっとアピールして行く予定だそうです。また、参加者をオンラインでつなぐ形で、「日本酒のeラーニング」も計画中とのこと。
コロナ禍で先が見えない中、安心して旅行ができるのはまだまだ先になるかもしれませんが、オンラインイベントを利用して、日本酒の魅力や酒蔵について学びながら、旅の計画を練ってみてはいかがでしょうか。
(取材・文:中大路えりか/編集:SAKETIMES)
◎店舗概要
- 店舗名:「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」
- 場所:JR東京駅 八重洲中央口外 グラントーキョー・ノースタワー 1階
- 時間:8:00~22:00(平日)/8:00~21:00(土日祝)
- 旅行カウンター有人対応:8:00~16:00(全日)
- Free Wifi:あり