日本酒が低迷した原因を作ったのは三増酒と言う意見は多いですが、意外にどのような経緯で三増酒が造られ、どのように純米酒が復活したのかについては知られていないように感じます三増酒について、また純米酒が復活に至るまでの経緯を説明させていただきます。

Vol.1では、「合成酒と三増酒の登場」と「満州国とアルコール添加酒」について、
Vol.2では、「終戦直後の食糧難と施設及び人的損失による酒造りの困難」と「戦後闇市にて販売されていた密造酒について、
Vol.3では、「昭和30年代後半から昭和40年代後半にかけての日本酒ルネッサンス」について、
Vol.4では、「三増酒の終焉と日本酒マーケットの現状」についてご説明させていただきました。

最終章となるVol.5の今回は、今後の日本酒振興の為の課題と日本酒復権への動きについてご紹介します。

今後の日本酒振興の為の課題と日本酒復権への動き

Ⅰ日本酒復権の為に必要な課題

ここまで、検証した中からいくつかの課題が見えてきていますが、まとめてみると、

・輸出に関しては関税と輸出の為の公的支援が必要であること。

・特定名称酒制度をもう少し消費者に理解してもらうこと。

・提供するプロの方にアルコールと健康に関する知識を身に着けてもらうこと。

・特定名称酒と経済酒の区別が必要なこと。

・今後、日本酒と地方特産の郷土料理に関する相性の研究が更に必要であること。

・若い世代に日本酒に関して関心を持ってもらうこと。

・日本人が日本の食文化でありモノ造りの文化の中心である日本酒の事をあまりに知らないこと。

以上が課題として浮かび上がってきます。

日本酒復興の為の若手酒蔵、大学生の活躍と地域密着型の食文化振興の動き

現在、日本各地で若手の酒蔵の方や酒販組合青年部の方を中心にしたさまざまイベントが行われています。

なかでも、大阪では酒販組合青年部と大阪府酒造組合の主催による大阪地酒天満大酒会は約5000人の参加者を集める人気イベントになっていますし、毎年6月頃大阪の飲食店と四国の酒造組合が組んで四国×酒国のイベントが大阪で開催され、大阪に居ながら四国中の酒が全て楽しめて買うことが出来るというコンテンツも充実し、盛況を博しています。

また、和歌山の紀土の銘柄で知られる平和酒造山本典正氏ものづくりの理想郷という今までにない、企業としてのモノづくりの視点からの日本酒に関する本を出版し、非常に高い評価を受けました。

このように若い酒販店や飲食店、酒蔵を中心に日本酒を若い世代に今までと違った形で興味を持ってもらおうという動きが出てきていますが、一方で自治体や大手のインフラ企業、酒蔵と大学生や地域の商工会と連携する動きが、最近出始めています。

実際に大学生が酒蔵の現場でお酒造りを行い、企画と販売まで行うことでモノつくりの視点から日本酒や商売を学ぶことで、日本酒の1つの課題である若年層に対する関心を呼び込もうという流れと、酒蔵から見れば大学生と一体になってお酒を造ることで、若年層の考えを知り、若い世代のニーズを肌で感じることで、新たな販売手法の開発やマーケティングを行っている部分があるように感じます。

実際に行われているのが、金沢大学を中心にした能登の数馬酒造と提携したNプロジェクト滋賀県立大学と喜多酒造が提携した酒造り、帝塚山大学と梅乃宿酒造が提携した(シュワ)プロジェクト利き酒師協会が大妻女子大学と提携し若年層や女性に日本酒を知ってもらうための研究が行われています。

また、関西学生連合と沿線にを持つ阪神電鉄と沿線に伏見を持つ京阪電鉄が提携し、日本酒を若年層に理解してもらい沿線の観光客を誘致しようというプロジェクトが今年に入ってスタートしました。

丹後鉄道と地元の商工会、酒蔵、利き酒師協会研究室の専属テイスターの古田豊弘氏が一体になり、地域の活性化と観光客誘致を狙った丹後天酒祭りが今年開催されました

この丹後天酒祭りは、丹後地方一体となった過去最大の酒蔵ツーリズムのイベントで今後の日本酒を使った1つのモデルケースになると考えられます。

海外における和食ブームと日本酒の輸出の動き

201312月、和食が世界無形文化遺産に登録されました。

それ以前から和食に対する注目度は非常に高かったですが、ここにきて世界無形文化遺産として和食が登録されたことにより、和食に対する海外からの関心度が更に高まってきています。

今年に入り、アメリカのNews Week誌が和食の特集を組むなどしていますし、飲食の現場レベルにおいてもヨーロッパから直接取材の申し込みがあるなど、今までにない動きが起こっています。

この件に関しては、第一次安倍政権において和食を含めた日本産の食品の1兆円輸出プロジェクトが本格的にスタートし、民主党政権下の国家戦略プロジェクトを挟んで、政府レベルにおいて、日本の食文化を海外に伝達しようという努力が、徐々に結果に結びついてきているように感じます。

日本酒に関しては、IWCにおいて日本酒部門が設立されて以来、酒サムライの活動などが功を奏して、非常に海外から注目を集め年々輸出が増えて来ています。

現在の政府自民党は日本酒の輸出に関して、日本酒全体の生産量の約5%を海外で販売することを目標にしているようです。(ちなみに2013年度においては約2.7%が輸出されていたようです)

当然のことながら、今後の課題としまして関税と流通の整備が公的に必要になってくるように思いますが、具体的な数字の目標ができて、年々そこに近づく方向に動いていることは、非常に先行きが明るいように感じています。

また、日本酒の地域特性や酒蔵ごとの味の特性に関する研究もさまざまな団体を通して行われているようですが、特にサッカー元日本代表の中田英寿氏による日本酒アプリによる日本酒の味に関するアプリももっと注目されていいと思いますし、利き酒師協会研究室専属テイスターから選抜された地酒検証研究会による、地域の地酒研究に関する報告が、利き酒師協会のシンポジウムや地酒祭りを通して先日発表され、非常に注目を集めていますし、専属テイスターによる酒仙人の日本酒香味評価ページにおいては各種日本酒の料理との相性がテイスターによって検証されています。

また、国内でも観光庁と各自治体が一体となり地酒を通した地域活性化が今までにない形で行われ、既に佐賀県や兵庫県における酒蔵ツーリズムは大きな成果を出していますし、日本酒の歴史に関する研究も、奈良県や兵庫県伊丹市、大阪府河内長野市などで官民を通して徐々に行われるようになってきています。

Ⅳ特定名称酒制度の再整備と経済酒の質の向上が必要

現在特定名称酒制度は、9つのカテゴリーに分かれておりますが、一般の消費者の方々からは少しわかりにくくなっているのも、日本酒が敬遠される理由の1つになっているように感じます。

現状でビールメーカーのプレミアムビール、ビール、発泡酒、第3のビールと解りやすいカテゴリー分類ができていて、消費者にある程度定着しています。

これを参考に日本酒でも以下のように分類できるのではないでしょうか。

1, スーパープレミアム日本酒 純米大吟醸酒、大吟醸酒

2, プレミアム日本酒 純米吟醸酒、吟醸酒、特別純米酒、特別本醸造酒

3, 特定日本酒 純米酒、本醸造酒

4. 日本酒 普通酒(経済酒)

以上のようにカテゴリー分けを明確化すれば消費者も商品を選びやすくなるし、特定名称酒制度も今以上に定着するように感じます。

さらに今後求められるのは、経済酒たる普通酒の質の向上が求められるように感じますし、現状で日本のビールメーカーの作る発泡酒、第3のビールの質は世界一高いといわれています。

終わりに

この三増酒を介した研究を通して主に昭和以降の日本酒の歴史を振り返ってみましたが、改めて感じるのは、海外に日本の文化を広めていくには、我々日本人がもっと日本の文化について理解を深めなければ、海外に日本の文化を発信していくのは難しいと改めて感じましたが、ここにきて地域密着型の地域ごとの食文化の発信に日本酒が非常に有効であることが理解されてきたように感じます。

今年、NHKの朝の連続ドラマでマッサンが放映され、そこで私が感じたのは日本の酒造りの技術の裏づけは、日本酒の技術の高さが大きなウェイトを占めていたことを改めて理解できました。

やはり日本人にとって日本酒は特別なものだと私は思いますし、この研究を通して1人でも多くの方に日本酒のことに関心を持っていただければ幸いかと思います。

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