飲食店や酒販店で見たり聞いたりする日本酒の用語を知ることで、さらに日本酒を楽しむことができるようになります。今回は、日本酒の表現としてよく使われる「複雑さ」という言葉を紹介します。
日本酒の「複雑さ」とは?
手元の辞書で「複雑さ」という言葉を調べてみると、『物事の事情や関係がこみいっていること。入り組んでいて、簡単に理解・説明できないこと』と書いてありました。
日本酒の味わいにおける「複雑さ」とは、いったいどんなものなのでしょうか。
それは「認識できる香りや味が多く、複数の異なる要素が同時に感じられること」を意味します。
「華やかな香りだけでなく、コクや苦味も感じられる」「甘味もあるが、キレがあって辛い」など、ひとくちのなかで異なる香りや味わいを知覚できる場合に、「複雑な味わい」という言葉が使われることが多いようです。
そもそも、米と水のみを原料とする日本酒から、さまざまな種類の香りや味が現れるのはなぜでしょうか。
それは、日本酒の造り方が影響しています。たとえば、ワインの場合は原料のブドウに含まれている糖がアルコール発酵をするため、原料の要素が最終的な出来を左右します。対して日本酒は、米のデンプンを麹が糖に変え、同時に酵母がその糖をアルコールに変えるため、原料だけでなく、どのように発酵させていくかが香りや味を決めるのです。
次に、香りや味の要素にはどんなものがあるのか、みてみましょう。
◎香りの要素
- 華やかな香り
- 爽やかな香り
- 米の香り
- 熟成の香り など
◎味の要素
- 甘味
- 酸味
- 苦味
- 渋味
- 旨味
これらの要素をひとくちでたくさん認識できればできるほど、より複雑であるといえます。ちなみに、それぞれの要素を認識する順番は、以下のようになっているといわれています。
- 香りの要素
- 甘味・酸味
- 旨味
- 苦味・渋味
複雑でないシンプルなお酒は、自動車やバイクのギアがテンポ良く上がっていくように、それぞれの要素を順番に認識することができます。しかし、「華やかな香りと旨味」「果実のような甘味と強い苦味」など、異なる要素が同時に感じられるお酒は、より複雑さが高い傾向にあるようです。
実際に飲んでみよう!
「複雑さ」を体験するお酒として、鳥取県・千代むすび酒造の「千代むすび 純米大吟醸 強力40」(写真中央)を紹介します。
鳥取県産の酒米「強力(ごうりき)」を使った、独特の旨味を中心に苦味と渋味、そして上品なコクが感じられる味わい深い純米大吟醸酒。リンゴのような穏やかな吟醸香も感じられ、貝類やカニなど、旨味のある食材と好相性です。
複雑な味わいのお酒は、料理と合わせることでさらにその魅力を発揮します。ひとくちにたくさんの香りや味が含まれるからこそ、さまざまな要素を楽しむことができます。食事との相性や異なる温度での飲み比べなど、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
(文/小林健太)