2021年度の日本酒輸出が、金額・数量ともに過去最高値を更新するなど、年々伸長している日本酒の海外進出。しかし、商品が流通している地域が限られていたり、せっかく届いても現地でのマーケティングが不十分だったりと、まだまだ課題が多いのが現状です。

そんな課題を解決するサービスを提供しているのが、アイディーテンジャパン株式会社です。

小口空輸配送の越境ECサービス「Japanpage:Sake」をはじめ、日本産酒類の海外輸出に関するさまざまな事業に取り組んできた同社は、2022年8月、180mLという小容量のアルミ缶日本酒ブランド「KURA ONE」を発表しました。正式な販売開始は2023年1月を予定しています。

小容量日本酒ブランド「KURA ONE」

画像提供:アイディーテンジャパン株式会社

今回は、前編・後編の2本立てで、同社代表の澤田且成(さわだ かつなり)さんにインタビューをしました。前編では、「KURA ONE」を発表するまでの経緯やブランドとしての魅力を、後編では、国内外の関係者から寄せられた期待の声を紹介します。

日本酒の海外進出のハードルを下げる

日本の地域産品のブランディングに取り組んでいるアイディーテンジャパン株式会社は、「ブランドとしての価値を高めることと同じくらい、実際に"売れる"仕組みを構築することが重要」と考え、特に日本産酒類の海外流通・販売における課題の解決に努めてきました。

そのひとつが、SAKETIMESの連載「SAKEの時代を生きる」の記事でも取り上げた、小ロットから海外輸出ができる越境EC「Japanpage:Sake」です。

「Japanpage:Sake」のキービジュアル

画像提供:アイディーテンジャパン株式会社

同社では、このサービスに合わせて、必要な情報を事前に登録することで、海外への輸出や現地でのマーケティングで発生する複雑な手続きを省くことができるシステム「Japanpage:Home」も開発しました。また、海外輸送に耐えられるオリジナルの梱包材によって、配送テストを実施した50ヵ国すべてに、破損なく日本酒を届けることに成功しています。

そのほか、酒蔵ごとに丁寧なコミュニケーションをとり、小口配送をしてもいい国といけない国をデータ化して管理したり、既存の取引先にマージンを与えたりと、トラブルが起きないような仕組みを築いてきました。

「日本酒業界では『三方よし(※)』という言葉がよく使われます。新規事業として参入する以上、これまで関わってきた人たちをリスペクトして、彼らの利益にもなるような取り組みをしなければいけないと感じていました」

造り手、売り手、飲み手など、関わる人すべてにメリットがあること

アイディーテンジャパン株式会社 代表の澤田且成さん

アイディーテンジャパン株式会社 代表の澤田且成さん

日本酒の輸出において導入が進んでいなかった小口空輸配送を実現したことで、多くの酒蔵から「海外進出がしやすくなった」と評価されている「Japanpage:Sake」。

澤田さんのビジネスは、「自分がこういうサービスをつくりたい」というプロダクトアウトの発想ではなく、「現場にどのような課題があり、どうやったら解決できるのか」を考えるマーケットインの発想。その結果として、日本酒業界の多くの関係者から、「私たちの課題をよくぞ理解してくれた!」と共感され、賛同を集めています。

越境ECを通して見えた課題

日本酒の海外輸出の問題を解決し、着実にシステムを構築してきた澤田さんですが、その中で新たな課題に直面します。

「現地での販売価格がどうしても高くなってしまうんです。マージンを減らして限界まで下げたのですが、それでもやはり高い。その大きな要因は配送料です。

日本の宅配便は箱のサイズで料金が決まりますが、海外は容積と重量で決まります。総重量が約1.2kgの四合瓶の場合、中身の日本酒は約0.72kg。総重量の約40%をガラス瓶が占め、その重さが配送料に大きな影響を及ぼしてしまいます」

そこで、当初はガラスの小瓶で販売しようと考えました。しかし、小瓶は資材の仕入れが難しい上に、1合(180mL)の日本酒に対する瓶の重さが約180gと重く、全重量の半分を瓶が占めてしまいます。

小容量のアルミ缶日本酒ブランド「KURA ONE」

一方、アルミ缶を採用すれば、容器の重量を小瓶の10分の1以下(約16g)に抑えられることを知った澤田さん。しかし、アルミ缶にはどうしてもチープなイメージがあったといいます。

「アルミ缶は、自分が実現したいスタイリッシュな日本酒ブランドとはほど遠いと感じていました。

しかし、リサーチを重ねるうちに、配送のコストを大幅に削減できるだけでなく、品質劣化の要因となる紫外線や蛍光灯の光をカットできる、飲みきりサイズでフレッシュな酒質をキープできる、リサイクル率が高くエコな素材として世界中で評価を集めているなど、たくさんのメリットがあることがわかってきました」

澤田さんは、「チープなイメージがあるなら、それを払拭するブランディングをすればいいのではないか」と考えを切り替えます。

アイディーテンジャパン株式会社 代表の澤田且成さん

「アルミ缶のアイデアを伝えたある酒蔵の方から、『容器の進化が日本酒業界を変革してきたんだ』と熱いコメントをいただきました。四合瓶や紙パックなど、新しい容器の日本酒が市場に響いたことで、日本酒のシーンが大きく変わっていったのだと。

アルミ缶は、ガラス瓶では届けられなかった市場に日本酒を届けることができるのかもしれない。ブランドのコンセプトや、それぞれの商品がもつストーリーを伝える仕組みを構築し、スタイリッシュなデザインを施して、新しい日本酒体験を届けようと考えました」

四合瓶の先発部隊としてのアルミ缶

こうして生まれたのが、小容量のアルミ缶日本酒ブランド「KURA ONE」です。

直径83mm×高さ173mmという表面積のすべてを生かして、国内・海外それぞれの規格に対応したデザインを設計。お米のシルエットを掲げたスタイリッシュなデザインと、各商品の四合瓶のラベルをベースにしたデザインの2パターンを展開しています。

「あくまでも、『KURA ONE』は、既存の四合瓶の販売を促進するための先発部隊という役割です。日本酒をまだ知らない、あるいはほとんど飲んだことがない人にとって、四合瓶はハードルが高く手が出しにくいもの。まずは『KURA ONE』で少しずつ飲み比べをしてもらいたいんです。

海外のお客様は、特定の銘柄を覚えるのに苦労して、『あのピンクのラベルのお酒』などと、視覚的に記憶をするケースが多いです。『KURA ONE』のラベルは四合瓶とほとんど同じで、銘柄名や酒蔵名をローマ字で表記しています。視覚的なイメージをそろえることで、既存の四合瓶の購入につながるデザインにしています」

「KURA ONE」の商品

画像提供:アイディーテンジャパン株式会社

缶には3つのQRコードがプリントされ、商品の詳細ページ、四合瓶の取扱店リスト、「KURA ONE」のブランドページにリンクしています。「このお酒についてもっと知りたい」という人に必要な情報を届け、「もっと飲みたい」と思った人が四合瓶を買うきっかけをつくることが可能です。

「今回の企画を酒蔵のみなさんに提案したところ、どの蔵の方々も好意的に受け止めてくれました。アルミ缶に興味があっても、充填用の設備を導入しなければならない上に、缶だから販売価格は安くしなければならないと考えて、手を出せなかった酒蔵が多いことがわかりました。

特に小さな酒蔵にとって負担となる充填作業やラベルデザインだけでなく、デジタルマーケティング、販売、配送に至るまで弊社が一貫して請け負うのが『KURA ONE』というサービスの特徴です」

また、「KURA ONE」は、同社が開発するスマートフォンアプリ「Japanpage:Picks」と連動しています。お客さんの購入データを集めたり、飲み手と交流したりすることも可能です。

「Japanpage:Picks」のキービジュアル

画像提供:アイディーテンジャパン株式会社

「酒蔵の方は、この『Japanpage:Picks』に、自社商品の紹介や、取り扱いのあるショップ・レストランを無料で登録することができます。

このアプリでは、商品詳細や記事コンテンツが投稿されるほか、酒蔵のSNS投稿を自動で収集し、5言語に翻訳する機能もあります。ユーザーは興味のある酒蔵をフォローしたり、投稿をブックマークしたり、コメントを投稿したりできるので、酒蔵は自社のお酒を飲んでくれたファンと直接つながり、その反応を知ることができるんです」

これまで届かなかった場所へ日本酒を届ける

主に小さな酒蔵の海外輸出のハードルを大きく下げると同時に、日本酒が手に入りにくかった国や地域にもその魅力を届けることができる「KURA ONE」。アルミ缶という容器によって、バーやクラブハウス、イベント会場など、これまで日本酒が飲まれてこなかったシーンを切り拓いてくれるのではないかと澤田さんは期待しています。

「地域やGI(地理的表示)ごとのセット、パーティセット、BBQセットなど、特定のテーマに合わせたセット販売をすることで、それぞれの酒蔵に"選ばれる機会"を提供していきます。ショップやレストランのオリジナルブランドをつくってお客様にプレゼントする企画や、リゾート地や旅行会社などとのコラボレーションも考えられます。

どんな方がどんな場所でそのお酒を飲んだか、データを集めることで、自社の日本酒を飲んでいるお客様がどんなものが好きなのか、どんな料理といっしょに楽しんでいるのかを知ることもできます。マーケティングツールとしての可能性は無限大です」

「KURA ONE」の商品

画像提供:アイディーテンジャパン株式会社

8月3日からスタートした応援購入サービス「Makuake」でのプロジェクトでは、セット商品を中心にさまざまなリターンを用意。ラインナップの全21商品がまとめて楽しめるリターンもあります。

日本酒の海外進出が直面する課題を解決するために走り出した「KURA ONE」。後編では、応援購入プロジェクトの詳細や国内外の関係者から寄せられた期待の声を中心にお届けします。

(取材・文:SAKETIMES編集部)

sponsored by アイディーテンジャパン株式会社

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