兵庫県・灘を代表する酒造メーカーの大関は、世界各国のダイバーシティ推進月間(通称 プライド月間)に合わせた新商品「ワンカップレインボー」を、2021年1月から数量限定で販売しています。プライド月間に向けた日本酒が発売されるのは、世界で初めてのことだそうです。

商品

1711年創醸の老舗である大関が、LGBTQ(セクシュアルマイノリティ)やダイバーシティ推進への理解を示したこの商品。2020年12月に海外での発売に関するプレスリリースが発表されると、SNSを中心に大きな反響を呼びました。

「ワンカップレインボー」が発売に至るまで、どのようなストーリーがあったのでしょうか。大関がこれまで行ってきた取り組みとともに取材しました。

海外進出で気づいたダイバーシティ推進の重要性

「ワンカップレインボー」は、1964年に発売されたロングセラー商品「ワンカップ大関」のラベルに、6色のレインボーカラーを表現した特別商品。レインボーカラーは、LGBTQの当事者やアライ(Ally)と呼ばれる支援者・理解者による社会活動を表したシンボルカラーです。

2020年12月の海外での発売に関するプレスリリース発表時は、2021年1月にオセアニア、5月からは北米・欧州など、順次、販売地域を拡充し、世界8ヶ国での発売を予定していましたが、数ヶ月で大きな反響を呼び、販売地域は日本を含めた世界11ヶ国に広がりました。海外販売分は、当初の予定数がすでに完売しているとのことです。

日本国内では、ダイバーシティ推進月間に合わせ、4月12日から大関の公式オンラインショップにて販売が開始されます。

「大関では、LGBTQに限らず、人権を守る活動に真摯に取り組んでいます」と話すのは、総務人事部の向井元男さんと荒木秀高さん。

たとえば、1996年には新卒採用のエントリーシートから性別記入欄を廃止し、2008年にハラスメント防止のための社内相談窓口を設置。2020年からは管理職や社員を対象にLGBTQへの理解を促進するための研修を行っています。

大関 総務人事部 部長 向井元男さん

大関 総務人事部部長 向井元男さん

社員教育を担当している総務人事部の向井さんは「日本酒業界で、こうした取り組みを始めたのは早いほうかもしれません」と話します。

大関がこのような取り組みに積極的な理由のひとつに、1979年に日本の酒造メーカーとして初めて、アメリカ(カリフォルニア州)での清酒の生産を開始するなど、同業他社に先駆けて海外進出を行ってきたことが挙げられます。

大関 総務人事部 次長 荒木秀高さん

大関 総務人事部次長 荒木秀高さん

約2年前まで、大関のアメリカ現地法人「OZEKI SAKE (U.S.A),INC.」で代表を務めていた荒木さんは、「ワンカップレインボー」を通して、「あらためて大関のことを知ってほしい」と期待を寄せています。

「LGBTQだけでなく、肌の色を理由とするハラスメントの問題など、アメリカにいるとダイバーシティ推進の潮流を身に染みて感じることがありました。アメリカでビジネスを続けるなかで、大関の中でもダイバーシティを受け入れる文化が自然に醸成されていったのだと思います」

企業としての今後の姿勢についてたずねると、向井さんは「従業員に対しての教育により力を入れ、ダイバーシティへの理解を深めていきたい」と語ってくれました。

「大関の取り組みが先進的かといわれれば、そんなことはありません。今回の発売を機に、従業員にはあらためてLGBTQへの理解を深めてもらいたいですね」

「どこの酒蔵よりも先駆けて、この商品を世に出すべき」

多民族国家であるアメリカを中心に、海外ではダイバーシティ推進に対する企業や行政の取り組みが活発です。

特にアメリカの主要都市では、「プライドマンス」と呼ばれる毎年6月ごろ、「プライドパレード」など、LGBTQの権利や文化への支持を示すさまざまなイベントが行われます。その期間中、大手企業のロゴや商品がレインボーカラーに変わり、企業としてのダイバーシティ推進の姿勢を発信しています。

「大関もこの姿勢にならうべき」と、「ワンカップレインボー」商品化の実現に向けて奔走したのは、海外営業部 次長の宮城こずえさんです。宮城さんを突き動かしたのは、大関のアメリカ現地法人で働くひとりの社員の声でした。

大関海外営業部 次長 宮城こずえさん

大関 海外営業部 次長 宮城こずえさん

「彼によると、お客様や取引先から『大関はレインボーカラーの商品を出さないのか』とたずねられる機会が多かったそうです。

また、彼自身がLGBTQであり、パートナーからも『伝統産業に身を置く企業が率先して取り組むことで、他の企業も追従しやすくなる。大関だからこそ、やるべきなのではないか』と言われ、『ワンカップレインボー』の商品化が数年来の悲願だったことも教えてくれました」

大関

「ワンカップレインボー」を提案した、Mark Fukushimaさん

彼の熱意を知り、創醸以来、時代にさきがける「魁(さきがけ)の精神」を掲げている大関だからこそ、「どこの酒蔵よりも先駆けて、この商品を世に出すべきという使命感を抱いた」と宮城さんはいいます。

「アメリカの主要都市では、プライドパレードなどのイベントの後、当事者だけでなく家族や友人、地域住民が自宅やレストランなどに集まり多様性を祝福します。そのときに飲むお酒として、選んでもらいたいと思いました。

また、社会運動に興味がない人にも、商品を手に取ることが、知るきっかけ・考えるきっかけになってほしいという思いから、海外でも広く流通している『ワンカップ大関』をレインボーカラーにデザインしようと、現地社員と話し合いました」

レインボーカップ

通常であれば、日本の商品開発チームを中心に企画を進めていきますが、「ワンカップレインボー」は、発案者の社員と宮城さんを中心に、海外営業部や現地のメンバーを巻き込んで進められました。同時に、社外のLGBTQに関するセミナーに積極的に参加し、さまざまな企業の取り組みも学んでいったそうです。

しかしながら、センシティブなテーマであるため、商品として発信することに対し、社内の意見も割れていました。それでもワンカップレインボーを発売することの意義をていねいに説明していったといいます。

また、社長が販売に向けて背中を押してくれたこともあり、結果として「企業の成長と個人の幸せに繋がる架け橋となるように」という共通の想いのもと、「ワンカップレインボー」の発売が決定しました。

10年間ほどアメリカで仕事をしていた宮城さんは、国や企業がLGBTQへの取り組みをするのは当然のことだと思っていたそうです。しかし、今回の企画を通して日本の現状を知っていくうちに、それが当たり前ではないことを知りました。

「日本で暮らすLGBTQの当事者は、司法や行政の場で非常に困難な状況に立たされているということを知り、理解や法整備の遅れを感じました。一方で、同性カップルを"結婚に相当する関係"と認めるパートナーシップ制度が全国60以上の自治体で導入されており、すでに1,300組以上のカップルが誕生しています。

また、2020年6月からは、国の法案でハラスメントに対する防止措置が企業に義務化され、取り組みを始める企業も増え、社会の流れが少しずつ変わってきています。あらためて、私たちがやろうとしていることは間違っていない、日本の歴史ある企業だからこそやる意味があるという思いが強くなりました」

「One LOVE, One CUP」に込めた願い

こうして商品化された「ワンカップレインボー」のラベルは、鮮やかなレインボーカラーです。豊かな多様性を表現するため、色の境目はグラデーションに。「印刷でこの色を表現するのが大変だった」と宮城さんは振り返ります。

大関 レインボーカップ

「One LOVE, One CUP」のキャッチコピーは、商品開発のきっかけをくれた社員によるものです。この言葉には、「地球上にはさまざまな人が住んでいて、国籍や性別、信条、それぞれのバックグラウンドの違いを問わず、誰かを愛する気持ちや愛は、平等で普遍的。同じひとつの愛で世界がもっと平和で暮らしやすい場所になるように」という思いが込められています。

2020年12月、大関の公式SNSに「ワンカップレインボー」の写真が投稿されると、国内外問わず多くの反応がありました。日本のLGBTQ当事者やアライの方から「本当にうれしい!」「日本でも発売してほしい!」といった声が多く寄せられたそうです。

また、「ワンカップレインボー」の販売国のレストランオーナーなどから、「これを機にワンカップをお店で取扱いたい」という声も上がっているそうです。

「発売に至るまでにたくさん苦労したので、うれしい言葉をいただいた時は本当に良かったと思いました。『ワンカップレインボー』で乾杯していただくことで、『ワンカップ大関』を今まで飲んでいただいていた方、そうでない方にも、"お酒を飲む"以上の価値をお届けしたいです」

社会のために酒蔵ができること

「ワンカップレインボー」が発売されたばかりですが、宮城さんはすでにその先に視線を向けています。

LGBTQへの理解促進の土壌づくりのため、来年・再来年のプライド月間でも手にしてもらえるように販売継続と販売地域の拡大に意欲を燃やしています。そして、「私たちの取り組みは点でしかありません。今後は、同業他社も含めたメーカー、流通、小売などの方々と協力し合いながら、取り組みを推進していきたい」と呼びかけます。

大関海外営業部 次長 宮城こずえさん

「海外法人も含めて大関では、さまざまなバックグラウンドを持つ人が活躍しています。また、日本酒業界は男性社会と言われることが多いですが、社長が女性であることも大関の特徴。多様性を活かして、新しい価値をお客様に届けていきたいです」

今年で創醸310年を迎える老舗企業でありながら、「魁の精神」をモットーに、従来の社会の枠組みにとらわれない酒造りを続けてきた大関は、「ダイバーシティ」という言葉が日本に定着する前から、多様性を受け入れる姿勢を整えてきました。

向井さんと荒木さんは「私たちにとっては特別なことではなく、ごく当たり前のこと」と語り、宮城さんは「社会的に正しいと思ったことは迷わずやるべき」と頼もしく話してくれました。

レインボーカラーで人と人をつなぐ、まさに"虹の架け橋"のような「ワンカップレインボー」。世界中から、乾杯の音が聞こえてきそうです。

◎商品情報

 

(取材・文:芳賀直美/編集:SAKETIMES)

sponsored by 大関株式会社

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